shortDream2
□某診断メーカーにてお題をお借りしまして
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「で、話ってなんですか、皆本さん。」
そう言って水を少し口に含む。
時刻はお昼時で、今日はなんとB.A.B.E.L.である皆本さんに奢ってもらう事に。
何故そうなったのか、と言うと冒頭の通り、皆本さんが私に話があるらしかった。
仮にも私と皆本さんはP.A.N.D.R.A.とB.A.B.E.L.で、敵同士なのだ。
そんな私にどうしてもしたいという話。
真面目な皆本さんなのだ、相当大事な話に決まっている。
そもそも、昨日偶然出くわした際に明日はあいているか、と問われ、OKを出した時にじゃぁ昼にこのレストランで、と言われたのだ。
きっとチルドレンに聞かれたくない…もしくは見られたくないのだろう。
そこで昼、というからには昼食を奢る、と
皆本が言い出したのだ。
楓は慌てて断ろうとしたのだが、皆本は話を聞いてもらうんだからこれぐらいは、と言って決して譲ろうとはしなかったのだ。
「あ、嗚呼、その事なんだけどね…、」
少し口ごもりながら皆本さんは何とかその先を口にした。
「――君は、B.A.B.E.L.に来る気はないかい…?」
そう問い掛けてきた皆本さんの表情は真剣そのものだった。
私は一瞬その表情に目を奪われた。
それから相手の言葉を心の中で何度も復唱する。
「…私が、B.A.B.E.L.に‥ですか?」
「嗚呼、そうだよ。君みたいな子があんな犯罪者組織にいるなんて間違ってるよ。僕達は君をいつでも受け入れる事が出来る。」
「…‥。」
その皆本さんの言葉はとても有り難いものだった。
"犯罪"という言葉に抵抗があるのは確かなのだ。
けれど…
「それは、出来ませんよ。」
少し困ったように笑いながらそう言えば皆本さんも同じように笑う。
「そう言われると思っていたよ。理由も勿論分かっている。でも、もし君があの組織が嫌になったその時は、B.A.B.E.L.に来てくれ。僕達はいつでも君を歓迎する。」
何度目か分からないその言葉でも、私は少し嬉しかった。
私を受け入れてくれるところが他にもあるのだ。
その事実だけで既にお腹いっぱいになりそうだった。
そこで、注文しておいたオムライスとカフェオレをトレイに載せた店員さんが近づいてきて、それらを私の目の前に音をたてずに置いた。
私はそれをぼー、と眺めながら先程の皆本さんの言葉に返答をする。
「有難う御座います。多分それは無いと思いますけど、もし……もし、その時が来たのなら、私はそちらにお邪魔するかもしれません、」
本当はそんな時は来てほしくない、と思っている。
それはつまり、あの人の傍にいられなくなった時を示しているわけなのだから。
すると皆本さんは嗚呼、と短く返事をしてから先に食べていいよ、と優しく笑って言ってくれた。
敵である相手に言う言葉ではないが、その皆本さんの笑顔が、言葉が、とても好きだった。
優しくて暖かくて、好きだった。
「いえ。皆本さんが頼んだものがくるまで待ってます。」
「え、でも冷めて…」
「良いんです。私がそうしたいんです。」
そう言って微笑めば、皆本さんは分かった、と渋々頷いてくれた。
その時だった。いきなり電話が掛かってきたのだ。
私は鞄の中にある携帯電話を取り出し、画面に表示されている名前を確認するなり立ち上がった。
「ごめんなさい、少し席外しますね、」
「嗚呼。」
慌ててお手洗いへ向かう。
鳴り止んだ携帯電話を開き、先程かかってきた電話番号へかける。
コールが鳴る前に応答した相手の声が響き渡った。
『楓!!僕に黙って外出するとはどういう事だい!?』
キーンとする耳から少し携帯電話を遠ざけながら電話の相手――兵部京介少佐――になんと言おうか考える。
「ええと、少し話がある、と言われたので、」
『話があると言われたら君は何処にでも行くのかい?!』
相当お怒りのようだ。
若干うんざりしながらも私は言った。
「そういうわけじゃありませんけど、本当に大事な話だったようなので、」
『今どこにいる?』
「え、駅前のレストラ――」
ンです、という前に今迎えに行く、と言って通話を終了させた相手に苦笑いを洩らす。
しかしこれは拙い事になったのではないだろうか。
きっと私が会っていた相手が皆本さんだとバレれば少佐は更にお怒りになるだろう、多分。
どうしたものかと思いながらそこを出る。
そらから席に戻れば皆本さんが注文していたカルボナーラが皆本さんの目の前に置かれていた。
「あ、え、私待たせちゃって、すみません!」
慌てて席につけば、皆本さんは大丈夫だよ、と言って笑ってみせた。
「それより、さっきの電話ってまさか…、」
「あ、嗚呼‥はは…、しょ、少佐です…。」
乾いた笑みを洩らしながら生気のない目で明後日の方向を見た私に、皆本さんはなんかごめんね、と謝ってきたので皆本さんは悪くないです、と私は慌てて言った。
「人の話も聞かないで今すぐ迎えに来るって言って…、寧ろ謝るのは私の方なんです、巻き込んでしまったらすみません、皆本さん。」
「嗚呼、うん、良いよ。っていうか兵部に言ってなかったのか…?この事、」
「え、は、はい…。」
すると皆本さんは冷や汗をダラダラと流し始めた。
引き攣った笑みを浮かべながらまぁもう仕方ないよ、と言った。
「まぁ取り敢えず食べよう。」
最後の一口まで食べる事が出来るか、と内心ひやひやしながらも二人でいただきます、と言って一口目を食べ始めた。
その時だった。
「まさか、相手っていうのは皆本‥って言うんじゃないだろうね、楓?」
いつの間にかテーブルの前に立っていた白髪の少年がそう言った。
その少年の姿を視界に入れた私は驚きのあまり咽そうになる。
「っな、兵部?!」
「やぁ、皆本クン。君良い度胸してるよね、本当。」
そう言った少佐の機嫌が悪いのは一目瞭然で。
私の隣に腰を下ろすと皆本さんを睨んだ。
「言っておくけどB.A.B.E.L.に楓は渡さないぜ?」
ニヤリと笑いそう言う少佐にぽかんとしていた顔を引き締め皆本さんが言った。
「彼女がもし、こっちに来たいと言う日がきたら僕は受け入れる、と言ったまでだ。」
「そんな日絶対にこないさ。いい加減諦めなよ、皆本クン。」
このトゲトゲした雰囲気をどうにかしたい。
嗚呼、ほら今少佐に水を出しにきた店員さんが可哀想だよ。ただならぬ雰囲気に水置いた瞬間高速で消えてったよ。
そんなトゲトゲした雰囲気をどうする事も出来ないだろうと思った私はオムライスを一口食べる。嗚呼、美味しいな。
「楓、僕にも一口くれよ。」
「え、少佐オムライス好きでしたっけ?」
きょとんとしながらそう問えば少佐は少し考える素振りをしてみせてから、まぁそういう事で良いよ、と言って口を少し開けてきた。
「ほら、早く。」
「自分で食べて下さいよ。」
「早く。」
しつこい少佐に折れた私はオムライスをスプーンで一口分掬ってそれを少佐の口の中に入れてやった。
すると少佐を目を細めて笑って食べた。
「人前でイチャつくなーッ!!!」
「なんだい?皆本君、羨ましいのかい?」
そう言ってカラカラ笑う少佐は本当に意地が悪い人だと思う。
それが自分の上司だというのだから嫌になってくる。
でもまぁP.A.N.D.R.A.を辞める気にはならないんだけれど。
こんな事が毎日続くけれど、こんな毎日も良いかもしれないな、
そんな事を思いながらまた一口、オムライスを食べる。
こんな二人のやり取りも、なんだかじゃれ合いのように思えてきて、
嗚呼、平和だな。
なんて思うようになってくる。
今日も明日も、明後日も、きっと平和です。
Fin.