shortDream2
□We can fly.
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空を見上げる。
そうすると必ず思う事がある。
――飛びたい……。
超能力者である私には容易な事だった。
飛ぼうと思えばいつでも、どこにでも飛べる。
いつでも飛べる、というのに。飛ぼうと思えば毎日飛べる、というのに。
何故ここまで飛びたくなるのだろうか。
「どこまでも、飛んで行きたい。」
いっそ、そのまま空に飲み込まれて、溶けてしまいたい。
そうすれば何も考えずに済む。
「やぁ、楓。どうかしたかい?」
いつの間に隣にいたのか、兵部がそう問い掛けてきた。
私はつい、とそちらに視線を向けてから言った。
「飛びたい。そして消えてしまいたい。」
目を細めて空を見上げて、何故か込み上げてきそうになる涙を堪える。
「消えられるのは困るな。」
眉を下げてそう言った兵部は、楓の頭を撫でた。
「どうして?」
その問いには答えずに、兵部はじゃぁ飛ぼうかと言ってふわりと浮きあがる。楓も慌てて同じように浮き上がる。
「君こそどうして消えたいと思うんだい?」
「そういう気分だったから。」
段々と上昇していき、頬をたたく風が心地良いと目を細めた。
「…それこそ困るというものだ。君は僕ら‥超能力者の未来の鍵を握る姫なのだから。」
楓の顎を掬うように持ち上げた兵部はそう呟いた。
「私は嫌だよ。超能力者と普通人が争うだなんて。」
「‥君だって普通人の事は許せないだろう?散々僕達超能力者を見下してきたんだ。」
「そうとは限らないと思うけどな。」
顎から手を離して憎しみに満ちた表情で言った兵部。
楓が風で靡く長い髪を押さえながらそう呟けば、兵部は納得がいかないといった顔でこちらを見た。
しかし、それも一瞬だったようですぐにいつもの表情で言ってみせた。
「…まぁ良いさ。君が思う未来はもうすぐそこにまで迫ってきている。つまり、もうすぐ君はこっちへ来るのさ。」
そう言って嬉しそうに笑った兵部。
何故彼がそこまで嬉しそうにするのか、よくは分からなかった。
「運命には抗えない‥って?」
「そうだね。まぁ僕は実際、その運命に抗おうとしていたわけだが…。」
目を細めてどこか遠くを見ながらそう言った兵部に内心首を傾げる。
まぁ良いかとすぐに思い直した私は更に上昇していく。
「‥君を見ていると本当にどこかへ消えていきそうで怖いよ、姫。」
「それが出来たら良かったんだけど。」
「笑えない冗談だ。」
冗談じゃない、という思いを込めて上昇速度を上げようとすると兵部に腕を掴まれ、そのまま引っ張られた楓は兵部の腕の中へと引き込まれた。
「お願いだ、消えないでくれ、楓…。」
心地よくて目を閉じる。
「心地が良いから消えない。」
そう言って笑ってみせれば兵部は少しきょとん、としていたがすぐに笑ってみせた。
「そりゃぁ良かった。…もっと飛ぼうぜ、楓。」
「うん。」
きゅっと手を握れば兵部もきゅっと握り返してくれた。
それが嬉しくて、少し加速した。
私には翼がある。
けど、一人では飛べない。
片方の翼だけでは飛べない。
だから、貴方が必要なんだ。
もう片方の翼の貴方が。
Fin.