フシトリオと短編1

□出来損ないの青春群小
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卑屈ながらに彼は愛をくれる。私もその鋭利な愛に全身で愛を返す。

そうすると彼は非情に喜んでくれて、だからこの甘美な泥沼から抜け出せないのだろう、つくづく思う。


私はこれをやめたいと思っている。異常だし。
でも彼はひどくお気に入りなのだ、愛による戯れを。





「うわ」






ぬめりけのあるそれを手でなぞらえながら広げていけば、あっという間に手の平は赤色に染まる。

血液独特の香りが鼻をさし、つい眉間にしわを寄せれば彼は私の手をしっかり掴んで更に血液へと沈ませた。


「おいおい、もっと触れってェ」


飛段さんが笑みを浮かべる。そして、腹から流れ出る血液を私の手にぺたぺたとつけるのだ。


絵の具の筆のような扱いで赤を飛段さんの腹から胸元にまで広げさせられ、おかしな光景につい私も笑みを浮かべてしまう。


「絵の具みたい」

「綺麗だろ?」

「うん、でも」


血液はだんだんに固まり始める。すると黒く濁ったような色になってくるのだ。


それがたいへん我慢ならない。

だから傷口をぐりぐりぐりぐり。


「うお!いてぇ!げはははは!」

「あ、でてきた」


どろり。血が滲む。

黒くない純粋な赤に再び笑みが溢れる。



「どろどろだ…って、うわ。ちょ、飛段さん!」

「んー?」

「私に付けないで下さいよ」


飛段さんの手の平もまるで絵の具のように赤をつけて、今度は私の頬につけてきた。
輪郭に合せなぞる手の平に思わず身をひく。しかし、飛段さんはそれを許してくれない。もう片方の手で腰を掴む。


「いいじゃねぇか」

「いやいや、勘弁してください」

「なんでだよ」


不機嫌そうに口を尖らす。

その仕草がまるで子供のようで可愛かったのだがあえて口に出さず。きっと機嫌損ねちゃうだろうし。


「こういうのはだめ」

「こういうの?」

「飛段さんがわたしを汚しちゃだめ」


不可解そうな顔をする飛段を無視して言葉を続ける。


「わたしが飛段さんを汚すのはいいとして」

「なんだそれ」

「飛段さんはだめなの」


これだけは譲れません。

きっぱり言い切れば、相変わらず不可解そうな顔をした飛段さん。


だがすぐに笑顔になり先ほど言ったはずなのに血まみれの手で私を抱き寄せた。


「わっ、ちょ」

「分かった分かった。あれだろ?」

「?」

「あかねは俺を汚したいんだよな」


そうです、そういうことなんだよ。
話を聞かない単細胞の飛段さんが分かってくれるか不安だったが分かってくれて良かった。

けれど安心はまだ出来なかった。
目の前にいる飛段さんの目が嫌ってくらい輝いてたからだ。


嫌な予感、そう思い始めたと同時にぬるりという感触がお腹に。

なに、と驚きながら見ればシャツをめくって飛段さんの手が侵入してきていた。
こ、こいつ。慌てて口を開きかけた私より先に飛段さんは


「だけど、俺はあかねを汚したい」


なんて言い放ち、呆然とする私ににやりと笑う。


「…つもり、お互い様ってことだな」

「…そうなのかな」

「そうだろ」


だからお互い楽しめばいい。

ぬめりけの手の平とぬめりけのある手の平を合せ言う彼にそうなのか、と疑問を抱きながらも、でも飛段さんが嬉しそうな顔をしてたからどうでもよくなった。


結局のところ飛段さんのことが大好きなんだ。
だから彼がしたのならしてあげたいとか思っちゃう私も、だいぶおかしい。


「純愛したいんだけどなー」

「無理だろ」

「なんで」

「俺ら狂ってんだから」



普通だよ。











ベッドルームの隅っこで
執拗に求めたのは
きれいなきれいな血みどろ




(おかしな欲情かな)

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