フシトリオと短編1
□土
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土曜日
「と、いうことで泊めてください」
ぺこりとお辞儀をして転がり込んだ家はサクラの家。
彼女は目を丸くし私を見て、次に携帯と財布以外何も持っていない手元を見た。
「急すぎるでしょ」
「急なのは承知なんです。もう、昨日は酒のせいで爆睡してたからいいんだけどさ。
今日朝起きたらもういてね、もうビックリして出て来ちゃった」
だから一生のお願い今日だけ泊めて!手を顔の前で合わせれば彼女は難しそうな顔をしながらも頷いてくれた。
「泊めるのは別に構わないんだけど」
「やった」
「でもそのシカマルさん?っていう人に言ってきたの?」
「…」
うっと言葉をつまらせる。
正直のところまともに言葉を交わさないで家を飛び出してきてしまったもんだから泊まるなんて話もしていない。
無許可なのは悪いけど、それでも今日はとてもじゃないが帰る気はない。シカマルさんと一緒の空間にいると息がつまって呼吸が出来なくなりそうだ。
「シカマルさんには後で連絡しとくから」
「絶対しなさいよ」
「…うん」
ほんとはするつもりなかった。
1晩くらい帰らなかったとしてもそこまで問題視されないだろう程度に思っていた。
だが今ここでこう言わなければサクラは納得しないはず。
ごめんね、と心の中で謝り「それより」と慌てて話を変える。
「宿題もう終わった?」
「当たり前じゃない」
「まじで!え、貸して!」
「あんたまた楽して」
「いやいや、自分でも進めたよ」
それもシカマルさんのおかげだけど。
その言葉と共に思い出すシカマルさんの顔に神妙な気分になりながらもそれを顔には出さないように笑った。
シカマルさんは本当に好きだった。今でも勿論好き。
しかし所詮歳の差もあるし久々に会ってそこまで親密なワケでもない。
だから心の中で諦めという文字は浮かんでいた。どうしようもないと思っていた。
なのに、わざとではないとはいえ…そういう、口と口が合わさるアレをされるだなんて。
せっかく諦めようとしたのにあんなことがあるだなんて。
「…もう嫌だ」
「で、そんなことはいいのよ。シカマルさんとの話聞かせてよ」
「……」
そうだよね、そう言えばサクラそういう恋バナ好きだもんね。
今思い出したくないっていうのに…ほんとにこの子は。
「あんたからそういう話出るの珍しいじゃない。聞かせなさいよ」
「そんな面白くもないし」
「普段私の話聞かせてあげてるじゃない」
あれはサクラが勝手にサスケ君サスケ君騒いでるだけじゃないか。
思わず言葉に出そうになったがサクラに殴られるというオチが見えてたからあえて飲み込む。
その間にもサクラは興味深そうに色々聞いてくる。
「そのシカマルさんっていうのはいくつ?」
「20」
「うっわ年上―。どういう繋がり?」
「いや私はあんま覚えてないんだけどさ」
思い出したくない、そう思ったのに気が付けばシカマルさんと私の関係や恋に落ちたキッカケ、今まであった出来事などを包み隠さず話してしまっていた。
自分が思ってたより人に話したかったのかもしれない、このうっぷんを。
サクラも年上、と聞いてなおさら興味がわいたのか次々と質問を繰り返してきて、それに対して私も答えて。
いつの間にかその話で盛り上がっていた。
「それ分かる。私もサスケ君見たときびびびって来たの」
「サクラも?」
「うん。周りに男子はいっぱいいたのにもうサスケ君しか見えないって感じで」
思い出すかのように遠い目で語るサクラ。アイドルのように騒いでるとはいえサクラの気持ちは本物。
今話している時でもたまに暗い表情を浮かべているのは、きっと彼女なりに葛藤など色々あったのだろう。
「でもさ、あんたも逃げてじゃだめよ」
「え?」
「同じクラスの上田さんいるじゃない。あの子年上の彼氏いるのよ」
「そうなの?!」
思わず目を丸くして驚く。
だって上田さんというのは大人しくて引っ込み思案で生徒会に入っているような真面目な子なのだ。
あの子に年上の彼氏だなんて信じられない。
サクラ自身もそう思っているのか「驚きよねぇ」と言って携帯をいじり
「これプリ」
と言って見せてくれた。
どれどれと見てみれば結構年上っぽい人で親しげに2人はプリにうつっている。
羨ましいなと思った。
「上田さんから告ったんだって」
「そうなの?」
「そうよ」
そのあとサクラには他の人の恋愛の話をされ、告白するべきよ!と何度も後押しされた。
きっとサクラなりに気を使ってくれているのだろうが、そう上手くいくのだろうか。
色んな人の成功話を聞くと逆に不安になって苦しくなって、考えるだけ頭が痛くなりそうで。