フシトリオと短編1
□金
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なんかおかしい、つい眉間にしわを寄せればようやく彼は口を開いた。
「…やわらけーな」
「は?」
「太った?」
そう言ってちょうど腹らへんを鷲掴みされた。
もう、なんなの。
「なな、はぁ?!」
「ぷにぷにしてる」
「シカマルさんキャラ違う!」
この人真面目人じゃないっけ?!混乱して腹を掴んでいる手を払えば、彼の目が私に向く。
「…大人になったな」
「へ、あ、まぁ…もう高3になりますから」
「そうか」
「…?」
高3か、高3か…と、私の言葉を復唱する。
何かを確認するかのような言い方につい訝しげな表情を浮かべてしまう。
シカマルさんが何をしたいのかが分からない。でもどことなく酒臭いからまだ酔っているのかな。どんだけ飲んできたんだ。
「シカマルさん酔ってるんですか?」
だったら嫌な酔い方だ。
彼は酔うとこうなるのか、絡み酒っていうのかな?こういうの。まったく迷惑な話である。
「酔ってる?…かもな」
「かもなじゃなくて絶対そうだと思いますよ」
呆れた目で見る。が、彼は動じることなくまた口を開いた。
「あんなに小さかったのにな」
「もうなんなんですか…うわ酒くさ!くっさ!」
だがシカマルさんが口を開くとむわっとしたお酒の臭いがとても臭くて臭くて。
ほんとにそろそろ、いい加減にしてください。
限界が近づいてきた私が怒ったように眉をつり上げた。
だがその前にシカマルさんは眠たそうにうとうとし始めた。
瞼が重たそうに何度も落ちてきて首がかくんかくんと揺れる。
「眠いんですか?」
「あぁ」
「眠いんならちゃんとベットに…」
行ってください。
そう続けようとしたのだが。
シカマルさんの顔がどんどん落ちてきて、完全に目が閉じて。
あれこの体制でコレってやばいんじゃ…と思いつつ何も出来ないでいると、
ふに、
という柔らかい感触。
「…え」
唇が、落ちてきた。
どこに、私の唇に。
…え、やわらか…。
「っ!」
「うっ」
それを理解した途端、体中の血液が沸騰するかのように熱くなって思わずシカマルさんの下を這い出る。
そのせいでソファから転がり落ちるかのようになって地味に痛かったがそれでも我慢ならなかった。
口を手で覆う。そして先程の感触を思い出す。
…むに、って柔らかかった。
「…ありえな、い」
まさか、こんな形で好きな人とファーストキスを迎えるだなんて。
今更そんな乙女心など残っているとは思わなかったが、自分もそこそこの乙女だったらしい。酷く動揺している。
シカマルさんは…
不安になって視線を送れば彼は何事もなかったかのようにぐっすり眠り込んでいる。
このやろう。
「…嬉しい気もするけど、あああ、もうわけわかんない」
この感情の名前はなんなのだろうか。
とりあえず、逃げたい。
◎朝帰り
(何かが聞こえた、がらがらと)