フシトリオと短編1
□木
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木曜日
今日こそ朝ごはん作る、と寝る前にケータイのアラームを6時にセットして決意したのだが、残念ながら起きることはできず逆にシカマルさんに起こされてしまった。
あの顔が私を見下ろしてたら誰だって動揺するだろう。
勿論私も動揺した。むしろ叫んだ。
「っぎ、うわあああ!」
「うるせーな…」
「なな、なんで部屋に…」
「昨日起こせっつったじゃねーか」
いや確かに言ったけど。
実際部屋にいて朝一発にあの声を聞いてしまうと心が落ち着かないし動悸息切れがやばい。
寝顔もそうだけど何よりこの散らかった部屋…見られたくなかった。
やはり昨日の内に片付けておくべきだった。そう考えるも後の祭り。
シカマルさんがチラリと私の部屋に視線を送り呆れたような表情をしたのをバッチリ見てしまった。
朝ごはんも綺麗に皿に盛り付けられた状態で用意されており、話を聞けば洗濯物も干し終わったという。
主婦並みの手際さに関心しながらも、ん?洗濯物?と時が止まる。
洗濯物って、タオルや私の服は勿論下着なんてものもあるんじゃないだろうか。
…この人、私の下着…。ほした、のか。
「……」
うっわああああ!!なんだ、すごい死にたい!最悪!シカマルさんに下着ほされたとか!なにこの地味な衝撃。
思いっきり動揺する私とは逆にシカマルさんは冷静で「取り込むのはお前な」なんて言ってくる。
「私の下着ほしました?」なんて当然言えるワケもなく赤面する顔を隠すように頷くしか出来なかった。
「朝飯食ったら宿題見てやる」
今だ動揺を隠せない私にシカマルさんが追い打ちをかける。
勉強という単語を聞くだけで気分が下がるしまたあの至近距離で…と思うと、心臓が煩い程に鼓動が鳴ってしまう。
でもシカマルさんと至近距離にいれるというのは嬉しいことに変わりないし咄嗟に「はい」と頷く私もいるのも事実。
なんだろう、彼といると寿命が縮まる気がするのは気のせいか。
そして朝ごはんはフレンチトーストという遠藤家に日の出を見なかったお洒落なメニューが出てきた。
テレビや友達の話では知っていたが、実際見てみると日本の食卓に似合わないような高級なメニューのような気がしちゃってもう。
でもハチミツかけたらすごい美味しくて手がとまらなかった。
好物にフレンチトーストをいれおこう。
「気に入ったか」
「はい。明日もこれでいいです」
「分かった」
…って違うよ!明日の朝ごはんは私が作る気でいたじゃん。なんでお願いしちゃってるんだ自分。
でも考えてみたら私って料理のレパートリー極端に少ない。
こんなんではシカマルさんには勝てない。
「…はぁ」
なんでシカマルさんって料理上手なんだか。
男なのに、とそっとため息をつけばシカマルさんが訝しむような表情で私を見た。
「どうした」
「あ、いえ…シカマルさんってなんでこんなに料理得意なのかなぁって」
「一人暮らしだからな」
え、一人暮らし?
思わずその言葉には反応してしまった。それはもう食事の手を止めてしまうほど。
そんな私にシカマルさんは知らなかったのか、みたいな反応で目を少し丸くさせ「あぁ」と言った。知らないよそんな話。
でもおかげでシカマルさんがなぜあんなに家庭的なのかという謎が解け、再び食事の手を進める。
…これ食べ終わったら勉強か。嫌だな。
「昨日は宿題やったのか?」
「やってない」
「…お前な」
「まだ春休みありますもん」
本来ならもう少し先に春休みの宿題を始める予定だった。
なのにシカマルさんのせいで勉強するハメになってしまった。これだけは唯一のマイナス点といれるだろう。
「時間なんてあっという間だぞ」
「長休みのたびに痛感してます」
まぁシカマルさんに勉強を教えられるっていうのも悪くない話だけどさ。
それから私はシカマルさんに勉強を教えてもらい、彼は彼でパソコンで何かの作業をしつつやったり。
午後になったらテレビの政治番組なんかを見て「日本はだめだな」「マニュフェストが…」と政治討論してみたり。普通に楽しい時間を過ごした。
やがて時間はシカマルさんが出かける夕方になりシカマルさんは立ち上がる。
「じゃ、行ってくるな」
「行ってらっしゃい」
「冷蔵庫に飯あるから」
腹減ったら食えよ。それだけ言ってシカマルさんは去っていった。
今日は流石に夜遅いんだろうな…複雑な気持ちになりながらも私はシカマルさんの言った言葉の通りご飯を食べることにした。
焼肉だった、美味しそう。
レンジで温めながら時計の針を確認する。17時過ぎ。…朝帰りとかだったらやだな。
そんなことを思い、でも真面目なシカマルさんだし、と考えることにして私は電子レンジから熱々の焼肉を取り出した。
でも残念ながらその日シカマルさんは帰ってこなかった。
◎ひとりぼっち
(くそ)