フシトリオと短編1

□水
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水曜日




昨日シカマルさんが言った。
料理や掃除などが出来る女の人の方が好きだと。

それをしっかり心に刻んだ私は今日、朝ごはんを作る気でいた。
メニューどうしよう、朝からカレーとかは重いだろうな、と夜遅くまで考えた献立もある。

やる気は十分であった。

しかし、心と体は別物だった。


「……10時」


携帯を見たらもう時刻は10時を過ぎていて思わず頭を抱えた。

こんなはずじゃなかったのに、何故起きなかったんだ自分。こんな時間ではシカマルさんが朝ごはんを作ってしまった後だろう。
明日こそ起きよう…憂鬱な気分でベットから降りキッチンへと向かう。

だがそこにはシカマルさんの姿はなかった。


代わりにあったものは机の上に置かれたラップされた朝ごはんとメモ書き。


『出かける』


たったそれだけの淡白な文字。
無言でメモ書きを手にとり見直したがどう見たってそれしか書かれていない。


「……はぁ」


せめてもうちょっとあるだろう。
余計なことは一切言わない文章を見てため息を一つこぼし、仕方なく朝ごはんに手をのばす。

冷えてラップに水滴がついたそれはだいぶ時間が経ったもの。出てく前一言くらい言っといてくれればいいのに。

寂しい、なんて思わないけど。





その日はシカマルさんもいないから宿題は当然やらずに1日中ゲーム・漫画・パソコンと好き勝手時間を消費した。
だらだらとした時間の過ごし方は好きだし退屈だとは思わない。

けれどいつも頭の片隅にはシカマルさんがいてニヒルな笑みを浮かべた彼の声を時々思い出してしまう。
恋するとはこういうことなのか。ゲームのミスをしてしまうし漫画もパソコンも集中できないし損なことばかり。


やがて目が疲れた私はごろりとソファに横になった。

疲れた、体も考え事も。なんだかやる気が起きない。シカマルさんはいつ帰ってくるんだろう。夕方かな、夜かな。

あれぐらいの男の人って朝帰りしてきてもおかしくない話だよね。今日中に帰ってこなかったらどうしよう。嫌だな憂鬱。
でももし朝帰りとかだったらどこかに泊まってきたってことか。だとしたら友達の家かな。それとも、女の人の家かな。

…そりゃそうか。

シカマルさんはかっこいいし優しいしあれで彼女がいない方がおかしいか。
彼女いるかいないかぐらいは聞いておけば良かった。
私なんか子供だしゲームとか好きで女らしくないし可愛げもない。シカマルさんに好かれるポイントもないじゃんか。
気持ちだけでどうこうなる問題じゃないよね、年上って。

…もう、早く帰ってきてよシカマルさん…。















記憶がうっすら映える。

放課後仲間の輪の中に入れない私に彼は言った。
「入れば」


鬼ごっこで転んで泣きべそをかいた私に言った。
「めんどくせーから」


友達と口喧嘩して苛々している私に言った。
「泣くなよ」


別れ際寂びそうな顔をする私に言った。
「明日も来ればいいじゃねぇか」



あぁ、なんだ。

私って案外昔のこと覚えてるじゃないか。
そしてきっと私の恋は、きっとこのときから。

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