フシトリオと短編1

□前日
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明日から1週間社員旅行でいなくなる母と父が食卓の席で言った。


「明日から一人だ、嬉しいか」


めちゃくちゃ嬉しいです、と本心を言うと父はすねるのでここはあえて「寂しいよ」と言っておく。
すると満更でもない表情をした父。自分から聞いたことなのに恥ずかしがっているようで茶を飲みながら顔をかくす。


そうだ、明日から私は一人なのだ。

何しても怒られないし何しても小言を言われないし私だけのパラダイス。


明日のことを思って自然と笑みが溢れる。
だが母はそんな私に水を刺すように「でも」と口を開いた。


「あなた一人じゃ心配だから人呼んでおいたわ」

「え?」

「近所のシカマル君。ほら、小学生のときドンクリグラブでお世話になった」


初めて聞かされる事実。
てっきり明日から1人でエンジョイできると思っていた私の箸が止まる。


なに、呼んでおいたって。
そのいらないお節介は。


「……」

「だってあなた一人だと何するか分からないでしょ?」


お母さん心配なのよ。
甘い声を出し私に言うがそんなこと言われてもありがとうお母さん!なんて気分にはならない。
しかもシカマル君って誰、知らないよそんな人。


「もしかしてシカマル君覚えてない?」

「うん」

「やだ、あんたあんなに懐いてたじゃない」


懐いてた?そんなこと言われても正直覚えてな……。


あ、うっすら記憶にあるかも。

小学生のとき、放課後にドングリクラブという皆で遊ぼう!みたいなクラブがあった。
私の家は両親共働きだったためそれに参加して父と母が帰ってくる時間まで遊んだのだが、そのとき私によくしてくれた高学年の人がいた。
私もその人に懐いていたしその人もなんだかんだで私を可愛がってくれた覚えがある。


「…その人がシカマル君、っていう人?」

「名前覚えてないの?」

「うーん、あんまり」


そうか、あの人がシカマル君なのか。

確か3個か4個程年が離れた人だと思ったが、となえると今は大学生くらいか。
頭の中でサッと計算し、嫌だなぁと思いつつ父と母の決定事項には逆らえない自分がいる。

「だから仲良くやるのよ」

「でも、いきなり他人と」

「大丈夫よ。頭良いから宿題でも教えてもらいなさい」


そう言って気楽に笑う母。それを不機嫌そうに見てから再び箸を進める。

明日が憂鬱だ。








主…高校2年生/現在春休み中

シカマル君…20歳/大学生

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