フシトリオと短編1
□月
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月曜日
ぴんぽーん
うわ来たちゃった。
「はいはい、どうぞ」
母と父が家を出てから数時間、午前10時。
インターホンが鳴り響き、すぐに昨日言ってた人だとピンときた私は廊下をぱたぱたを走りすぐドアを開けた。
「…えっと、あなたがシカマル君…じゃなかったシカマルさんですか」
だがそこには記憶にうっすら残る人とは別人だった。
いや、髪型もだるそうな目付きも面影はあるのだが、なんというか、かっこいい。
だるそうな目元もなんだかおかしな色気を放つ端正な顔立ちをしていた。予想外のことで一瞬時がとまる。
「あぁ。久しぶりだな」
「ひ、久しぶりです」
だがシカマルさんは口角をあげそんなことを言う。
正直こっちは久しぶりと言われても昨日まで覚えていなかったのだから実感などない。
困ったな、私結構人見知りなんだよ、と苦笑をしているとシカマルさんも苦笑を浮かべ中へと入ってきた。
「1週間よろしく」
「はい」
「なんだ、緊張してんのか」
固くなった私の声音に気づいたらしいシカマルさんは頭をくしゃりと撫でてくる。
高校生になって初めての、いわゆるなでなでに思わず足を屈めよけようとしたがシカマルさんの手は長かった。わしゃわしゃと髪の毛を乱していく。
「……」
「じゃ、入るぞ」
どうぞ、とは言えないほど私は動揺していた。
「これ、お母さんが食べてって」
とりあえず母が作った漬物を差し出す。
こんなもの嫌がられるんじゃないか、と内心ドキドキしていたが意外にもシカマルさんは嬉しそうに食べた。
「相変わらず美味いな」
うちの漬物食べたことってあるんだ。記憶にないが彼の言葉から察するにそうらしい。
驚いているとシカマルさんは漬物を私にも差し出してくる。
なんだか家主が逆みたいだ。しかし有難く受け取っておく。
ぽりぽりとした食感を楽しみながら、さすがうちの漬物美味い、とつい笑みを浮かべれば。
「食えるようになったんだな」
「え?」
「漬物」
ふっと口元を緩めて懐かしむような声で言うシカマルさん。
その瞬間私の中で何かが貫かれた。
「そうか、お前も高校生だもんな」
「……」
「…ん?」
「…っな、なな、なんでもない、です」
どうしよう、なんか、こんなカッコイイ人だっけ。シカマルさんって。
だるそうな仕草といい低い声といい大人っぽいとこといい、全てが私の目には輝いて見えた。
なんでだろう、昔のことはあまり覚えてないし今さっき会ったばかりの他人なのに、そんな、なんで。
…ときめくだなんて、少女漫画の乙女じゃあるまいし。
「じゃ、俺はここでレポート作業してるから」
「レポート」
「提出しなきゃなんねーんだよ」
すっげーめんどくせーけどな。
そう言って笑う彼になんだか顔が熱くなるのを感じながら「たいへんですね」と当たり障りのないことを言っておく。
するとシカマルさんは私の勉強道具が無造作に広げられているリビングのテーブルへと行き、カバンからノートパソコンを取り出したもんだから、私の心臓は跳ね上がる。
もしかしてそこでやるきなの。そんな、私の目の前で作業する気なんですか。
「あかねも構わず宿題やってていいから」
「……」
「どうした?」
「な、なんでもないです。じゃ、お邪魔します」
変に緊張してしまいシカマルさんの前に座る私に彼は笑った。
「自分の家だろ」
そうだった。
自分の家なのにお邪魔します、なんて似合わない言葉だった。
今日はなんだか上手く話せないなぁ、そっとため息をついて私は勉強を始めた。当然、集中なんて出来るはずもないし問題は難しいしで手は止まってしまう。
生物の授業もっと真面目に受けておくんだった。
担当教師が嫌いだったためノートをとるだけで話など上の空で聞いていた。そのせいか今の範囲のところは教科書見ても首を傾げるばかり。
式、ってなに。なんで生物に数学みたいな問題があるのおかしくね。
ぐるぐるぐるぐる、思考ばかりが巡る。
ふいに長い指が視界の中に入った。
ん?指?と驚く前に私の耳の横で
「分かんねぇのか」
低い低い、シカマルさんの声。
「っうわわわわわ!」
「あ?どうした」
いつの間にか机から身を乗り出し私の宿題をのぞき込んでた。
あまりの顔の近さに呼吸が出来なくなる。やばい、やばいよ。
だけどあまり変な態度をとって変に思われたくない。
なんとかふーふーと浅い呼吸を繰り返し極めて普通に見えるようになんでもないです、と言った。つもり。
シカマルさんはちょっと不思議そうな顔をしたけどすぐに私が止まっているところを長い指先で刺す。
「これか、分かんねぇの」
「う、はい」
「これはな…」
そう言えば母が頭良いとか言ってたな。説明を始めたシカマルさんの声を聞きながらぼんやりと思った。
確かにシカマルさんの説明は馬鹿にも分かるような砕けた言い方だし理解できる。こんな私にも理解できるよう説明できるんだ、相当頭良いのだろう。
「で、教科書にもこの式あるだろ」
「…あ、あった」
「ちゃんと見ろよ」
呆れたような表情。それでもかっこいいと思ってしまった私は、やはり恋でもしてしまったのだろうか。
◎月曜はお勉強!
(一目惚れなのかな)