フシトリオ番外編

□おとこ
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夏は何もしなくとも汗が勝手に吹き出してくる。

広間でテレビを眺めていた私はじわじわとにじみ出てくる汗にそっとため息をついた。扇風機は回っているもののやはりクーラーの快適さには負ける。

暑い、暑すぎる、一体何なんだこの暑さは。

だからといって部屋に戻れば扇風機も何もない更に暑苦しい空間が待っている。扇風機があるだけマシなのだ、そう考えることにして私はテレビに集中して暑さを忘れようとした。

努力はした。忘れようと頑張ったのだ。

だが意識するにつれて暑さが逆に気になってしまい、耐え切れなくなった私は仕方なくソファから立ち上がった。


「…シャワーでも浴びようかなあ」


今の時刻午後2時過ぎ。この時間帯なら風呂に人などいないだろう。

冷たい水を頭からかぶればきっとすぐに涼めるはずだ。そう考えた私はフラリと風呂場に向かった。



…あ、そうだ。着替えの服を取ってこなければ。











―――――――――――――






着替えの洋服をとってきた私はフラフラと風呂場に向かった。暑さのせいで頭がぼーっとする。ふわふわした可笑しな感覚。


「…あー…」


これはもしかしたら結構やばいのかもしれない。私は相当暑さで参っているようだ。早く汗を流して頭をスッキリさせたいものだ。

自然と早歩きになり長々とした薄暗い廊下を突き進んでいきながら手で顔を扇ぎ風を送る。それでも暑い。暑すぎる。


この暑さを我慢しながら風呂場に向かえば思ったとおり人の気配はしない。
あぁやっぱり。まあそうだよな、2時過ぎなんて中途半端な時間帯。そんな時間帯に風呂入る人など暁にはいない。



安心して置かれてあるカゴの横に衣服を置き、自身の服に手をかける。


じっとり汗を吸った服は濡れていて気持ち悪いなぁと思いながらガバリと脱げば、ちょうど、その時。


「…誰かいんのか?」


誰かの声が聞こえた。ん?と思いながら首をかしげ辺りを見回せば、風呂の中。

曇りガラスの向こう側にのっそりと人の影が見えた。それと同時にバシャリと誰かが風呂を上がる水音。


「!?!?!」


えっこの時間に風呂入ってんの?!え、誰よ?!


風呂にいるせいか声がくぐもっており誰だか判別出来ない。

しかし低い声音は男だということが分かり、一度脱いでしまった服を慌てて着れば、風呂の中にいる男もぴじゃぴじゃと水音をたてながらこちらに向かってくる。
だんだんに影が濃くなっていくのをどきどきしながら待っていれば、その影はトビラに手をかける。


手をかけて、ガラリと開けた。



「…うおッ」



思わず変な声が出てしまった。


出てきた人物はまあ見慣れた人物なのだが、その、なんていうか、格好。



「あぁ、あかねじゃねぇか。…うん」



デイダラ、君。


まあ、別に、うん、いつもなんだかんだで仲良くして貰っているデイダラ君なのだが。

彼は、髪をほどいていた。しかも下半身にタオル一枚という、そういう、風呂上がり!という格好であって。


「…あ、あはは…やっほ」


苦笑しか浮かばず渇いた笑い声を出せば、デイダラ君はそのまんまの格好でのっそのっそと私に近づいて来た。うわ、こっちくんな。


「なんだよ、こんな時間に風呂か?うん」

「や、汗かいちゃって…シャワーでも浴びてスッキリしようかと」

「ふーん、なるほど」


私の返事に納得したかのような表情で顎に手をあて頷くデイダラ君だが、私は、なんだか、それどころではない。

異性の体は見慣れないと何度言ったことだろうか。
ここでもそうだ。異性の体などそうお目にかかれるものではなかったのでそれだけで可笑しな動揺がある。
別にデイダラ君の裸!きゃっ!という感覚ではない。裸だ、男の裸だ、みたいな、おかしな動揺としか言いようがない。


「デイダラ君はなんでお風呂なんかに?」


動揺を悟られぬよう、慌てて質問をだせばデイダラ君はん?と首をかすかに傾げた。
その際、普段高々と結ばれていた髪の毛が揺れて肌に張り付くのを見て更に肌が熱くなる。デイダラ君、意外に筋肉あるんだなぁ。

ひょろいもやしっ子みたいなイメージあったんだけど、やはり鍛えているのか。
しかも髪の毛下ろすとまたイメージが変わる。女々しくはない。寧ろ雄々しい。


「オイラ任務で今帰ってきたんだよ、うん」

「そうなんだ」

「あぁ。お前も風呂今から?」

「…あー、そのつもりだったんだけど…やっぱいいや」
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