フシトリオ番外編

□ぎゅってして、欲しいな
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「イタチの驚いた顔って見たことねーよな」


いん広間。

今人気の昼ドラをオレンジジュースを片手に持ちながらぼーっとしている時、飛段さんがぽつりと呟いた言葉に私は顔を向けた。


「突然なんですか」

「まあそりゃそうだろ、うん」


また唐突だな。デイダラ君も私と同様昼ドラから視線を外し言えば、飛段さんは「だってよ」と続けながら私を見る。


「あの澄まし顔崩してみてぇ、なぁ?」


…これはあれかな、私に同意を求めているのかな。

確認のためデイダラ君を見れば呆れたような顔で「お前だろ」と言ったからそうなんだろう。

イタチさんの驚いた顔ねぇ…。ちょっと想像してみる。



…。



「あー…そうですね、見れたらいいですね」


クールで表情を崩すことのない彼。あの人が慌てたり驚いたり、…見れたらそれはそれで面白い。
だがあれほどのクールさを崩すなど無理だろう。

力ずくにしろ驚かすにしろ結果は目に見えてる、とすぐに興味をなくし昼ドラに視線を戻せば、おおちょうど良いとこ。
男の不倫相手が家族団欒のところに来ちゃったよ。わくわくしながらオレンジジュースを飲む。うん、美味い。


「やばくね、うん」

「やばいね、これ」



「…っお前らァ!」


話をまともに聞かない私たち2人に飛段さんが怒鳴る。
怒鳴られたってどうしようもない問題なのだからしょうがないじゃないか、ねぇとデイダラ君と頷き合う。

それを見てぐぬぬと拳を震わせる飛段さんだが、突然「ん?」と何かを思いついたかのような表情を浮かべた。


「…待てよ…

……うん、うん…よし、これならいける!」


…なにやら一人で頷き始めた飛段さん。

なにか変な案でも思いついたらしい。

嫌な予感しかしない、2人で口元を引き攣らせれば飛段さんはゲハハハ!とお決まりの高笑いをしてから私に言った。



「あかねちゃん、ちょっと手伝えよ」



















「…あかね一人か?」


それから暫くしてイタチさんが広間にやってきた。

ソファにテレビもつけず一人で居る私に不思議そうに聞いてくる彼にぎこちなく「う、うん」と答える。


くそう、飛段さんめ。変なことを押し付けやがって。
でも服買ってくれるっていうんなら仕方ないと妥協する私も私だ。ばかやろう。


一応手はずは教えて貰った。そしてキッチンの影に気配を消した飛段さんとデイダラ君がいるのも。
こんなことでイタチさんの表情が崩れると思わないけどなぁ、内心不安に思っているとそれが顔に出ていたらしい。
やけに暗い顔した私を心配したかのように「どうした」と聞いてきた。


「あ、え、なんでもない、ですよ!」

「そうか」

「……」


いや、違う。
飛段さんに指示されたのは確か…。


「……あ、やっぱ体調悪いかもです」


そうそう、心臓に手を当てて、と。


「大丈夫か」

「あ、ちょっときついかも」

「部屋に行くぞ。立てるか?」


…うう、なんだかどきどきしてきた落ち着け自分。
服のためだ、服のためにイタチさんに嘘を言うぞ。人生で初めて言うような少女漫画のようなことを、私は言うぞ。


「…なんか、おかしいなぁ」

「なにがだ?」

「…い、イタチさんが近くにいると…余計心臓が、痛くなる…みたい、です」

「……」


…なんだこれ、どこの少女漫画だ。

飛段さんに言えと指示された言葉だがこれでイタチさんが驚くとは思えないぞ私は。
ぐあああと熱くなる全身を無視しながらイタチさんの表情をチラリと伺う。


…う!…無表情…、死んでしまいたい。


「……あ、えと……その、」


あともう1つイタチさんに言えと指示された言葉がある。
正直言うとこの言葉は言いたくない、本音はとてつもなく言いたくない。

けれど服のため…この世界で服数の少ない私にとって服を買ってくれるだなんて甘いお話受けないわけにいかない、だから服は欲しい。


欲しい、から…。


「……い、イタチさんが」

「……」

「……ぎゅ、て、してくれたら、治るかも」




あ、キッチンの影から覗いているデイダラ君と飛段さんが肩を震わせてこっちを見てるのが見えた。


まじでお前ら、くそ、まじでお前ら…、あああ消えてなくなりたい。


どきどきしながらイタチさんの言葉を待つ。嘘なのにおかしくなるほど心臓が煩くて表情なんてもう見れない。目を合わしたくない。




なのでどきどきしていれば、




影が、かぶる。




「…え、」

「これでいいか?」



低い甘い声。

それが耳元で響いた。



柔らかな体、綺麗な顔、さらさらの髪の毛。全てが0距離にあった。





「………」





どう、しよ、う。




嘘、なんだけど。







「……」



固まっている私にイタチさんは無表情で手を伸ばし額に触れた。
あまりの冷たさにびくりと体を揺らしたが彼はそんなこと気にせず私の温度を手でじっくり確かめてから言う。


「熱があるようだな」


ねつ、ねつね、熱……。


「……」

「立てないなら俺が連れていくが、」

「……〜っ、


…っあぁもう耐えられない!すみませんでしたイタチさん!!」


こんな、こんな騙し方耐えられない主に心が。変な気恥しさで全身が熱くなりそのテンションのまま私はソファから立ち上がり頭を深々と下げた。


「なにがだ」

「実は、実は嘘なんで、」



「おおおい!なんでネタバレすんだよ!」

「そうだぞ!今ビデオ回してんだから、うん!」


私の告白につられるかのように飛段さんとデイダラ君がキッチンから飛び出してくる。

え、ビデオ回してたの?デイダラ君の言葉に驚いて彼の手元を見れば確かにビデオカメラがあった。
ちょ、ビデオ回してるだなんて私知らされてなかったんだけど、どゆこと。


「回してたの?!は、ちょ、やだ消して!」

「いいじゃねェか!驚いちゃいねぇがあんなイタチ滅多に見れねぇし?ゲハハハハ!!」

「見ろよ、オイラの芸術的な撮り方。まるで映画のワンシーンみたいだ、うん」


自信ありげにビデオカメラを見せてくるデイダラ君。見たら、確かに撮り方うまかった。
おおお、すごい、上手いぞ!確かにこれなら映画でもドラマでもありそうな感じだが…ってそうじゃない。
まさか撮っていただなんて聞かされてなかったことだしイタチさんと、その、そういうことをしているシーンが残るのは精神的につらいものがある。
また変な恥ずかしさがじわじわと沸き上がり、デイダラ君の持つビデオカメラに手を伸ばすが、ひょいひょいとかわされたちくしょう。


「も、ほんと消してまじで!」

「は?だめに決まってんだろ、うん」

「なんで」

「こんな面白いの消すわけにはいかねェだろ、なぁデイダラちゃん」

「ちゃんつけんな」


こ、こいつら…!

揃いに揃って、とだんだん焦りが怒りに変わっていくのを感じ更にデイダラ君を怒鳴ろうと口を大きく開けたとき。



肩に誰かの手がのった。




「待て」



イタチさん…。


なんで止めるんだ。あなたまで被害にあってるの、に…。


……あれ、なんか……目……。




「なんだよイタチ」

「見るか?うん」


2人はイタチさんの反応に気分が良くなったようでにやにや笑いながらビデオカメラをちらつかせる。

煽っているかのような態度にまたむっとする私とは対照的にイタチさんはひどく落ち着いた声音で言った。



「お前ら、」
























「え、気づいてたんですか?」


ビデオカメラを取り返し落ち着いた頃、イタチさんに言われた言葉に目を丸くした。


「あぁ」

「ひ、飛段さんたちが隠れていることも?」

「あぁ」

「……」


こ、この人…全てお見通しだったのか。

私が嘘を言っていたことも飛段さんとデイダラ君が隠れていることも。



知っていて何故、…その、…私を抱きしめたのか。

思い切り動揺しつつ聞いてみた。そしたら、


「何故とは」

「だって、嘘だって分かってたんですよね?」

「だがお前がして欲しいと言っただろう」

「…そう、ですけど…」


そうだけど、そうだけどさぁ…、抱きしめるってそう簡単に出来る行為じゃなくない?
もっと重要なものだと思うんだけど、イタチさんレベルだとそれはもう関係ないのかあいさつ程度なのか。

やばい、思い出したら熱くなってきた。

ぱたぱたと手で風を送りながら苦い顔をすれば。


「あかね」


イタチさんに呼ばれたため顔をあげる。
なんだろう、もうこれ以上精神的に追い詰められるのは嫌なんだけど。どきどきする。けどイタチさんは私の予想と反し随分と柔らかい声音で言った。


「服でつられたと言ったな」

「う、…はい」

「服くらいなら俺が買ってやる」

「…え、いいんですか?」

「あぁ」


…ちくしょう、やっぱかっこいいなこの人。
その優しさに感激しつつにっこり笑う。



「……くそォ、イタチぃぃ」

「ぐ、写輪眼め、…うん」


イタチさんがただ見つめただけで突然手折れてしまった人がなにやらうなっている。

まったく、イタチさんに睨まれただけでびびっちゃったのかなぁ。だらしがない奴らめ。
伸びてる2人を鼻で笑ってまたすぐ視線をイタチさんに戻す。

勿論デイダラ君が撮ったビデオカメラは私のお願いで破壊してもらった。ほんともうイタチさんさすが…!
















◎メロウ、メロウなあなた

(じゃあとりあえず死んでる飛段さんたちの写真をとっておきましょう)

(はい、ちーず!)
 

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