短編2
□あの人の死に際
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ひらひらと一枚の葉が落ちてくる。それを掴もうと手を伸ばしたのだが風に揺られ葉は何度も方向を変え私の手元に落ちてくることはなかった。
桜の花びら。地面に落ちる前に手で掴めば幸せになれるとかいうジンクスが昔流行った。
葉を見てなんとなく思い出した記憶に懐かしい気持ちになり目を細めればざっざと砂利を踏む音が。首だけ動かし向けばだるそうな目をしたその人が立っていた。
「なあにしてんの」
「畑さん」
「病院抜け出したんだって?皆探してるよ」
呆れはない。ただ私をじっと見つめながら言う畑さんの姿を見た後すぐに視線を青々とした緑の葉をうつした。空を覆うかのような大きな大きな木は見ていて壮観である。
だけど畑さんにはその態度が気に入らなかったのかなんなのか。
私の背後に立って、何故か両手で私の目を隠す。当然真っ暗になる視界。
「なんですか」
「ほら、戻ろ?」
壮観だと思っていた景色を奪われ私は暗闇の中で瞬きをした。目元に触れる暖かな温度が心地好い。
じんわりとした微熱のような熱さはとても浸っていたくなるのだが、視界が遮られるのはどうも困る。畑さんの手の上に私の手を乗せ、やんわりと剥がせば案外あっさりと剥がれた。
「もうちょっとここにいてもいいですか?」
久々の外。もう少し外の空気に触れていたい。白い部屋の中はとても退屈だ。あの部屋にいては、何も思い出せない。
けれどここなら。綺麗な空気と緑があるここなら思い出せそうな気がして。
「なんか、思い出せそうな気がして」
私には記憶がない。私は誰なのか、木の葉の忍だったのか、いつなくしたのか、どうしてなくしてしまったのか。
どれも理由は分からない。いや、ここにいる人たちは皆知っている気がする。知っているのに話してくれないのだ。名前だけ教えて貰った。あかねという名を。
だから名前以外の記憶は自力で取り戻すしかない。さあと爽やかな風が頬を撫でていくのを感じながら目を瞑る。
けれど、畑さんはどうも納得してくれていないようだ。
ぱしり、と私の腕を掴む。
「だめだよ。君は病人なんだ」
「…でも」
「退院したら好きなだけ付き合ってあげる」
だから戻ろう?柔らかな声音で畑さんが言うもんだから、私も渋々従う。
「分かり、ました」
「良い子」
片目が嬉しそうに細まる。優しい優しいこの人は嫌いではない。むしろ好意的に思っている。だから、そんな顔されては黙るしかない。
ぐい、と腕を引っ張られ病院へと戻っていこうとする畑さんの後ろ姿を追った足の長さが違う私たちだが、畑さんは私の歩幅に合わせてくれているらしい。ゆっくりと私を急がせない速さで歩く。
ざ、ざ、と地面の砂利を踏む。青々とした葉が幾つか散らばる中を歩く私たち。
「あかねはさ」
「はい」
「記憶、取り戻したい?」
「そうですね。自分が何者なのか、知りたいですし」
「そ」
ざ、ざ、ざ。
あ、また葉っぱが落ちてきた。青々とした葉っぱ。風で落ちてきたのだろうか。
上を見上げれば眩しい太陽が私たちを照らしているもんで思わず目を顰める。
ぎらぎらとした太陽は直視出来ない。直視出来ない、強い光。
「……」
眩しい、直視できない、刺激的で、暴力的な、あれ。
「……、」
なんか引っ掛かる。
けれどそのとき腕が強く引っ張られた。上を向いていたため咄嗟に反応出来ず目を丸くしながら躓きそうになったが、その前に畑さんが私の体を支える。
「畑、さん」
「どうしたの?」
「え?」
「太陽が、どうかした?」
あれ、なんか怖い。優しげな目元、優しげな声音なのは分かるのだが。どうも畑さんの纏う雰囲気が怖かった。
気のせいかもしれないが、ともごもごと口を動かしながら理由を言う。
「え、と。なんか、思い出せそうな気がして」
「何を?」
「何をって、昔のこととか」
もう1度太陽を見る。やはり直視は出来ない、片手で目元に影を作ってみた。あ、だいぶ良い感じ。
「いいから、早く行こう」
そんな私のことなんて畑さんはお構いなしに進んでいく。急にまた歩きだしたのでまた躓きそうになったがそこは頑張って。なんとか2本の足でカバーした。
畑さんは私が記憶を取り戻すことをあまり快く思っていないらしい。すたすたと足早に病院へと向かっていく畑さんの背中を見て、そっとため息をついた。
せっかちだなあ。
まあ、でも。
記憶がないのならないで良い。
畑さんを含め私を知る親切な人たちがたくさんいるから、と楽観的な考えで畑さんの後を追った。
―――喝!
どこからか、そんな声が聞こえた気がしたけど。
すぐに畑さんが「今日のご飯はなんだろね」と話を振ってくれたので私もそれに笑いながら答えた。
「肉食いたい」
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「か」カカシの元カノは暁、の設定
しかし泥と出来ていた設定
泥の自爆の光と太陽まっぶし!