短編2

□未成年の暴走
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男を押し倒すなんて人生で初めての経験である。
だけどやらなければ。やらなければこの男、イタチさんは私を追い出す。それだけは嫌だ。

やる、唾液混じりに呟き押し倒したイタチさんのズボンを引きずり下ろそうとしたとき、イタチさんが手を伸ばす。


「やめろ」


醒めた声音。

生ぬるい温度の気持ち悪い手が私の手をやんわりとどけイタチさんは上半身を起き上がらせた。
私はそれを呆然として見る。


「…なんで止めるんですか」


自然とそんな言葉が出ていた。

きっと今の私は恨めしい者を見るからのような目付きをしているに違いない。止められるとは思っていなかったから。
だけどイタチさんはそんな私にもしれっとした顔で表情を変えずに言う。


「俺にそんな気はない」

「…わたし、初めてですけど頑張りますから」


私だって女だ。
胸だってそこそこあるしどうやったら男の人が気持ちよくなるかも知っている。漫画の知識だけど。
絶対イタチさんを満足させるという意気込みはあるし私は気持ちよくなくても良いから頑張りたいとさえ思っている。

なのにこの人は、拒否する。


「なぜそこまでして」

「いいから、イタチさんは寝てて下さい」

「あかね」

「…」


咎めるような声に思わず言葉を止める。


「……」

「なにがあった」

「…べつに」

「もうこんな時間だ、家に帰れ」


ぴくり、ついイタチさんの言葉に反応して肩を跳ね上がらせてしまった。
当然大きな変化に気づかぬわけがなくイタチさんが私の肩にそっと手を置いた。


「帰りたくないのか」

「…」

「…また喧嘩か」


う、図星だよちくしょうめ。

思わず露骨に表情に出してしまえば彼は予想していたようでそっとため息をついた。
そうだ、喧嘩だ。母親と父親と祖母はみんなで私を責める。3対1だなんてひどくはないだろうか。

もうあんな家になど帰りたくない。顔をあげきっとイタチさんを見た。


「イタチさん、なんでもするから」

「……」

「お願い、家において」


身を乗り出し詰め寄る。
あそこに帰りたくない、そのためなら私はなんでもする。強い眼差しでイタチさんを見たのだが、彼の綺麗な赤い目が私をうつし1度瞬いた。

そして口を開いたのだが。


「だめだ」


それは私が求めていた答えではなかった。む、っとして更に詰め寄る。


「なんで」

「お前の帰るべき場所はここじゃない」

「やだ、今日からここに住む」

「そもそもここは俺の家ではない」

「……」

「わけあって借りているだけだ。すぐに出ていく」


初めて聞く事実に目を丸くした。てっきりイタチさんは引っ越してきたもんだと思ってたから。
…だけど、それならなおさら都合がいいかもしれない。
イタチさんがどこかに行くなら私もこの小さな村を出ていきたい。

面白味のないこんな村に思い入れなんてないし離れられるなら好都合、と言わんばかりに私はそれを主張する。


「じゃあわたしも連れてって」

「だめだ」

「なんで」

「必要ないからだ」


即登か、ひどい。だけどめげない。


「…イタチさんが連れてってくれたら、わたしがんばる」

「何を」


白々しい、心の中で笑いながら私はイタチさんの下腹部に手を伸ばした。
するり、と何の反応もしていないそれを指先で上下になぞり、ぐいとイタチさんに胸を押し当てる。


「こういうこと」


私だってもう子供じゃないんだもん。頑張れば、なんだって出来る。

だからお願いだよイタチさん。私は、外に出たい。


「…だめだ」


だけどイタチさんの意思は揺るがない。


「……」


悔しくて唇を噛む。
なんで、なんで、なんで。もう嫌なんだあの家に戻るのは。


「なぜ喧嘩した」

「……」

「あかね」


イタチさん、もうやだよ。
自身の中で感情が溢れなんだか喉の奥でしょっぱい味がする。やばい、泣きそうだ。
わたしをきょひしないでよ、ねぇ。


「……あの人たち、私に忍やめて家の家業継げっていうの」


自由じゃない、どうしてもついてくるそれ。
おかしな感情がどんどんと流れ出るのを我慢できずじわあと滲む瞳がいたい。


「私は忍続けたいのに、」

「……」

「姉ちゃんが嫁に行ったからって、私に継がせようとすんの」


嫌だ、嫌なんだよほんとに。
忍として能力をあげていき人に認められ誰かの役にたつ。それが楽しくて嬉しくてしょうがないのに。

あの人は唯一の私の楽しみを奪おうとする、敵なんだ。
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