短編2

□おちゃらけて笑えよ
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▼神奈月様リク/転生→現代パロ


木々の隙間から突き刺す光は、まるでかつて浴びた闇のよう。

しとしとと肌に降る感触はなんとも言えない心地よさ。懐かしい、と感じるのが近いかも。

ぼんやりと見上げながら風に揺れる青葉を見た。綺麗。


「ここにいたのか」


静寂を切る静かな声。
反射的に振り向けばスーツ姿のサソリの姿が。


「仕事終わったの?」

「あぁ」


サソリは胸ポケットから煙草とライターを取り出しながら私の横に座る。


「草だよ、いいの」

「構わない」


汚れるだろうに。

構わず座ったサソリをいいのかと思いつつ暖かい体温に満更でもなくて。
つい笑みが浮かんでしまうのを隠すように俯く。まったくもう、このやろめ。


「また見てたのか」


だけどサソリは私の様子などまったく気付かないかのように小さく呟いた。
その言葉の意味など理解しているはずなのにサソリの体温にばかり気にしていたため返事が遅れる。

見てた、というのは。視線を景色に向けた。


「見てたんだろ」

「まぁ」

「何が楽しいんだ、こんなもん」



サソリは景色を見た。


ただ暗闇の中に山がそびえ立っているだけ。ここに数十年暮らしている私たちには見慣れたもの。

だけど私にはそれ以上のもの。

彼はそれを知らないだけ。


「私には特別な場所なの」

「どういうことだ」

「サソリにとっても特別な場所だよ」


彼はそれを覚えていないだけ。


予想通りきょとんとした表情をするサソリになんだか私は笑ってしまう。
苦笑というやつだ、所詮。
彼がした約束だというのに私だけが覚えてしまっているこの状況に苦笑。


「俺にも?」

「うん」

「別に思い入れなんてねぇぞ」

「そっか」


まったく、ひどい人だ。

覚えていないのにこうして巡り合えたのも奇跡に近いだろう。それとも、縁の深さか。

結局私たちは切っても切れない糸で結ばれているのだろうか。

だとしたらドラマチック。


「約束したのになぁ」

「は?」

「私とサソリが」

「何の」

「えへへ」

「言えよ」


やはり彼は分からないといった風な表情を浮かべた。形の良い眉がつり上がっている。

その姿を見ながらも教えてあげる気などさらさらない。
口元に笑みを浮かべ、やれやれと言った風にため息をついてやれば、彼の動きもピタリと。


「…教えてあげない」

「てめぇ調子にのんなよ」


こうやって出会えたんだ、ここの世界でも。
かつて仲間たちの暮らした面影など、今はもう良い思い出。


覚えはなくとも、彼は私を選んでくれた。







またここで会おう








「…えへへへ」

「なに笑ってんだ、気持ち悪ぃ」

「思い出し笑い」



照れ屋の彼がそんなこと言っただなんてきっと彼は認めないだろうけど。

今でも私は覚えてるよ、サソリ。


「…まぁ、でも」

「ん?」

「こうしてお前と寄り添って見る景色も、悪くない」


じっと山を見て言う。

そりゃそうだよサソリ。あそこが、私たちの家だったんだもん。


ますます冷え込み始めた夜に身を震わせながら私はサソリにもっと近付く。
暖かい、温度。あの頃感じることが出来なかった温度がいまここにあると思うとたまらなく幸せでほかほかして、


「…幸せだー」

「当たり前だろ」


思わず隣にいるサソリに抱きついた。

















◎忘れた男と覚えている女

(終わりに再開に)



リク内容
・転生→現代
・サソリは前世を覚えていない
・主だけが覚えている
・ハピエン

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