頂いた文
□召しませ心臓
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もう本当に嫌だ。なにが嫌だって全部嫌だ。出来ることならあの時に戻ってバカな自分を殴りたい。いや、殴るだけじゃ足りない。蹴り飛ばしたい。
わたしは草隠れの医療忍者だった。
だった、というのは何を隠そう今のわたしが草隠れの忍ではないからだ。薬学に精通した者が多い草隠れの医療忍者。それはわたしの誇りであったのにひょんなことからわたしの誇りは奪われてしまったのだ。
遡ること半年前。わたしは業務前に薬草を摘むためめったに人の入らない森の奥へと赴いていた。普通の薬屋じゃ入れない。忍でないと来れない場所だ。業務開始時間まであとちょっと。早く済ませなきゃあならない。
湿布薬として使える薬草を探しに窪地へ降りた時、わたしはある異変に気付いた。腹部に鎌の刺さった男が倒れているのだ。恐らく死体だろう。誰がこんなむごいことを。
鎌を抜き、傷口を塞いでから埋葬してやろう、と近寄るとその死体から声をかけられた。今儀式中だから用があるなら後にしてくれ、と。完璧に死んでいると思って近寄っていたのだから驚いた。更にとても元気のいい声だったから余計にだ。こいつおかしい。
わたしの敗因はこれである。おかしいと思った瞬間さっさと里に帰ればよかったのにあろうことかこいつの儀式が終わるまで待って治療してしまったのだ。そのせいでわたしはこの変態マゾヒスト野郎に誘拐され、知らない間に里抜けの犯罪者にされていた。くそう。ふざけんなよハゲろ!ハゲてしまえこのゾンビ!
誘拐された当時のことを思い出し薬を調合していた手がつい荒くなる。ああ思い出すだけでイライラする。もう嫌だ帰りたい。くそう!もうほんとあの時のわたし死ねばいいのに。
いくら後悔をしても悪態をついても時が戻るわけはなく次第に手つきの荒さが増していく。調合していた痺れ薬がピチャピチャと周りに跳ねた。
「お、あかね何してんだァ?」
『うっわ!ちょっと、触らないでよ変態!』
わたしを後ろから抱きしめてきたのはわたしを誘拐したゾンビ男、飛段だ。マントを羽織ってはいるが半裸。直接肌が当たっている感じがして気持ち悪い。
『あーもう飛段!触らないでって言ってるでしょ!』
「ンだよー。いい加減慣れろよなあ」
『慣れたくなんかないわ!とりあえず離れて!』
彼の腕の中からぬけだそうと必死にもがくが流石というか何というかびくともしない。一度捕まったら最後。なかなか離してくれないのだ。この半年で飛段のこの行動にも慣れたといえば慣れたが本人に向かって慣れたやら抵抗しなかったりするのは癪だから絶対言ってやらない。実を言うともう抵抗することもだいぶめんどくさいけど。
いくら離せといってもぎゅーぎゅーと力を緩めない。更には服の中にまで手を入れてこようとしてくるから厄介だ。うっざい飛段。
どうにかしてこの拘束から逃れようと偶然近くを通りかかったサソリに助けを求めてみるも鼻で笑われた。くそう!
本当にこの組織にはまともな人間がいないのか。いや、確かにいるといえばいるんだ。このわたしを抱きしめてる変態やさっきわたしを鼻で笑った赤髪チビの他にちゃんと。だが最初こそは助けてくれたが今やみんなこの変態と関わりたくないのか見て見ぬ振りをされる。その気持ちは正直痛いほど分かるけどなんだか悲しいです。
「お、角都のヤツやっと帰ってきたみたいだな」
『……!』
アジトに増える人の気配と飛段の言葉にわたしは思わず顔を上げた。やった!やっと角都さんが帰ってきた!暁の中でも一番この変態野郎をどかせてくれる確率の高い角都さんが。
『角都さん!助けてください!!』
「…またか」
角都さんがわたし達のいる部屋の扉を開くと同時にそう叫ぶ。すると角都さんは既にこの光景を予想していたのか少しだけ面倒くさそうにため息をついた。
「報酬はなんだ」
『空区付近に千七百万両の賞金首が潜んでいるのを確認しました。ここから出していただければもうちょっと詳しく調べられます』
そう最後まで言い切った時にはわたしに引っ付いていた飛段は角都さんによって吹っ飛ばされていた。ざまあみろ。
『……あの…角都さん』
「まだ何かあるのか」
『お願い、なんですけどわたしを草隠れに帰してください!!もう嫌です!そもそもわたしみたいな弱っちいの暁にはいらないでしょ!』
「悪いな。お前は金を嗅ぎつける才がある。帰すわけにはいかない」
絶望しました。この先もここで生きていくしかないのか。思わず調合したばかりの痺れ薬を思いっきり投げると、手入れが終わったばかりのサソリの傀儡に当たってしまいました。やばいわたし死んだわ。
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くっそう…!も、目がかすみやがる…!
大好きなサイト様の2万打で頂きました…!
ああああ角都好きだよお「帰すわけにはいかない」ってもおおお……好き…!
こんな素敵設定で萌えないわけがない(^ω^)もぎゅもぎゅ
報われないお話も大好きですけど、糖分も良いですね。マダラも好きだけどゾンビ好きだぁあ