ギラリン長編小説〈青年編〉

□精霊
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「リンク」


誰……?

誰が呼んでるんだろう?

酷く、全身が痛い…


「ここ、は…?」

うっすらと瞼を開けると見慣れた
天井が広がっていた…

(僕の…部屋?…何で…僕、此処に…?)

ガンガンと痛む頭のせいで
正常に思考が働かない…

僕は何で此処にいるんだ?

鳥のりの儀を、…

確か、女神像の手のひらで…



「マスター…」

………?
急に聞こえた声の方向をみると、
みたことのない青い姿をした女の子が
こちらを見つめていた。


「…君、は……?」

不思議とその初めてみる筈の
女の子に、ずっと会っていなかった友人か家族のような奇妙な親しみをかんじて、
一瞬、痛みすら忘れ、じっと女の子を凝視した。

女の子はそんなリンクに
すこし近づいて再び口を開いた
「マスター。」

…酷く機械的な口調だ…

「…??」

『マスター』とは僕のことだろうか?
思わず部屋を見渡したがやはり部屋には自分しか存在していない…

(…僕の…こと?…)

だとしたら、

自分のことをしきりに
主人(マスター)と呼ぶこの
女の子は一体何者なのだろう

スカイロフトでは見ない顔だ、

いや、それ以前にこの女の子は
どうみても人間ではない。


肌も眼球も頭髪もすべて青色だし、

黙ってそこにいられたらまるで
水色の大理石かなにかで彫られた
彫刻がそこに飾ってあるかのような
そんな、見た目だ

おまけに空中に浮いている…

僕は幻覚をみているんじゃ
ないだろうか?

そう思いながらごしごしと
両目を擦ってみたが

やはり女の子は目の前に居て、
肌も眼球も頭髪も真っ青のままで
空中に浮いていた…

「マスターリンク、
お目覚めですか」

再び女の子が語りかけてきて
ふと、あることに気がついた、

「マスター、応答してください。」


この声…

どこかで聞いたことがある…?

「君、どこかで…?」

「……マスター、ファイとの会話が
噛み合っていません。」

「ファイ?」

首をかしげたリンクに女の子は
やはり、機械的な口調で答えた

「ファイとは、『ファイ』の名前です、」

どうやらこの女の子は
ファイという名前のようだ、


「……ファイ、きみ……もしかして…前にどこかで、あったことある?…」

リンクの問いにファイは淡々と
答えた。その言葉には感情という色が完全に、抜け落ちていて冷たく感じる…
普通なら嫌悪感を抱くはずだが、
リンクはなぜだが、『 ファイ』
に好感を抱いていた…

(まるで、欠けていた
何かが満たされる、…みたいな、…)


「……マスター、マスターが…
ファイに会うことは初めてでは
ありません。」

「!、やっぱり、……きみの声
何処かで聞いたことが…あるんだ、…でもどこで………」

そこで、リンクはやっと思い出した

「────そうだ、きみの声…確か」

最近何度も見る、夢の中で…、

僕の名前を呼んでいた

あの声だ、


ふと、自分の体に突き刺さった
白い剣とひどい痛みを
思い出してリンクは眉を寄せた

「……君は、君は一体…何なの?」

リンクの問いにファイは
小さく頷いて、答えた。

「マスター、もう理解しているとは思われますが、ファイは人間ではありません。…ファイは…女神ハイリアによって創造されし、剣の精霊です。」


「ハイリアか作った剣の、精霊?…」



もしかして、とリンクは

自分の机を見た。

その机にはボロボロの本が一冊置いてある…



鳥乗りの儀の前日に読んだ
あの古びた本…あの本に
書かれていた剣の精霊なのではないのだろうか、

ところどころ劣化して
読めなかったが確かに、
書いてあった…

「…勇者の為にハイリアより創造されし…聖剣……君が、それ、なの…?」

伝説の破片が目の前に
存在していることにドキドキと
胸を高鳴らせてリンクはファイに
視線を戻した、
相変わらずの無表情のまま、
ファイはこたえる。
「イエス、マスター…」

ファイの一言にハッとして
リンクは息を飲んだ…

…マスター……?

剣の精霊の、マスター…?

まさか、

まさか、そんな、


「なんで、……僕の事をマスターって、……呼ぶ…の?」


答えはもうわかっていた。


「それは、マスターが女神ハイリアに
選ばれた勇者だからです。」

剣の精霊である
ファイのマスターということは、
ファイの宿る剣の『主人』ということ、

つまりは聖剣の使い手
だということになる…

「僕が、勇者…?勇気ある者?…」

突然の事に頭がおいついていかない

なんで、僕なんかが、…


「貴方には、使命があります」


「…使、命……?」


呆然と聞き返すリンクにファイは
頷いて続けた。
「マスターは追わなければなりません……」

追う?…


追うって、何を……?


「邪悪なるものの手によって
地上に落とされたゼルダ様の
跡を、追わねばなりません」

「そうだ!!!ゼルダ!!!」
そこで漸く自分がなぜ
此処にいるのか、
全身がいたむのかを思い出して

リンクは思わず飛び起きた。


「ゼルダを助けにいかないと!!!…ッう…」

急に動いたせいか、
後頭部を思いっきりぶつけたような
ひどい頭痛が襲う。

「マスター落ち着いてください。
ゼルダ様は無事です。…」

ファイがふわりと目の前に飛んできた

…心配

してくれているような、
そんな顔、だ。

……いや、やはり

きのせい、なのかもしれない。


「…それなら、はやく、
迎えにいってあげないと…
ゼルダは、…何処にいるの?」

ガンガンと痛む頭に手を当てて、
聞き返すと「ついてきてください」

無感情で冷たい声が、

返ってきた

けれど、不思議と
嫌な感情は生まれないのだ

ついさっき会ったばかりなのに、

ファイといると
すごく、安心する


"どこか、なつかしい"

ような…






「わかった…ついていくよ」

そういって窓の外を見ると、
スカイロフトはすっかり
夜に飲み込まれてしまっていた…

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