ギラリン長編小説〈青年編〉

□女神の掌
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少し出遅れたが、
リンクも皆に続いて

スカイロフトから飛び降りた。

回りの生徒らが次々と
ロフトバードを呼び、
色とりどりの羽を撒き散らして
舞い上がっていく様に
しばらく見とれていたリンクだが、

空中で体制を整えると、
直ぐに指笛を吹いた。


その音を聞き付けてやってきた
赤い相棒の背中にしっかりと
しがみついて、急上昇しながら
辺りを見回した

ここまで高く飛ぶと、
スカイロフトが両手に
乗っかってしまいそうなほど
小さく、見える


「あんな所で生活してるんだな…僕たち、…」

おもわず独り言を漏らしていた、



改めて思い知らされる…

この世界には、

スカイロフトと、

幾らかの小さな島が
ポツリポツリと雲の切れ間に
浮かんではいるが、



それ以外には、何もない

ただただ、

真っ白な雲海が永遠と
続いているだけだ。

あまりにも狭くて、広い


けれど僕は、知っている…


あの、場所を


「!!!」


突然視界を横切った金色に
ハッとしてすぐにあとを追いかける


(大切な儀式中だぞ、
なにやってるんだ僕は!)

余計な考えを追い出すように頭を
左右に振ってから前を見据える
素早い動きに何度も振りほどかれそうになるが

少しずつ間をつめていき
なんとか近付けた。

そして、目的の
木彫りの像へゆっくりと手を伸ばす

「っ、…あと、もう少し…」

カツンと指先があたる、

「!!」
限界ぎりぎりまで
相棒の背中から身を乗り出した

「させるかああ!!」

その声に驚いて振りかえれば

突然、衝撃がリンクを襲う

「っ!?」
「俺の優勝をジャマすんじゃねえ!
引っ込んでろ!!」

「バド!!?」

バドが体当たりをしてきたのだ、
「なにするんだよ!!」
直ぐに体制を整えて
バドのあとを追いかけたが、
「バドさんのジャマをするな!」
と、ラスとオストが
石を投げつけて来たために

上手く追い付くことが出来ない…

石が少し当たり、苛立ったらしく
リンクのロフトバードが
唸った。

「大丈夫、避けながら追いかけよう」


相棒をなだめて、
再び金色のロフトバードを
追いかけ始めた


「リンクのやつ、また来やがったぞ!おい!オストやっちまおうぜ!」
「…ん、」

それに気がついたラスとオストが
再び石を投げはじめたが
構わずに直進した、


「バドぉおお!!」

リンクのロフトバードがバドのロフトバードにぶつかった

「ってんめぇ!!何しやがる!!」
バササッと体制を整えたのを確認して
リンクはキッとバドを睨み付けた
「これでおあいこだろ!」
そう言いはなってから
怒りは収まっていなかったが、
リンクはその場から飛び去り、
金色のロフトバードを追いかけた…

先程と同じように間を
徐々に詰めていき、

やっと、木彫りの像を手につかんだ

「やった!…」
(これでゼルダも喜んで…)

しかし、突然

ゴスッと鈍い音がして

視界が反転した

自分がまっ逆さまに落ちていると
きがついたのは此方に向かってきている相棒の姿が視界に入ってからだった。

─────あれ?


(まただ、…この、感じ……)


『乱気流だ!!』


悲鳴が……悲鳴が、
辺りに散らばっていて

『早く島にもどれ!!』

でもたしか僕は間に合わなくて


落ち……て…

『なあに、君の命の恩人さ!』

白い、あの、人…

顔が思い出せない…

ああ、

もう少しで

思い出せそうなのに、

まるで霧がかかったようになって…




「約束……したのに、な、」






「リンク!!!」

聞き覚えのある声にくらくらしていた
意識がひきもどされるとともに

ボスン、と柔らかいものに着地して
リンクは二三度、瞬きをした…


「あれ?………痛ッ!」
後頭部の痛みに表情を歪めながら
上体を起こせば視界に
綺麗な金髪が飛び込んできた
「…ゼルダ?」
どうやら彼女が
たすけてくれたらしい…

「僕、なんで、」

その質問にゼルダは真っ青な表情のまま固まっているラスを睨み付けた
「誰かがなげた石が当たったのよ、…大丈夫?リンク…」

「うん、なんとかね…」

なるほど、と納得しながら
笑ってみせればゼルダは
安堵のため息を吐くと、
眉をつり上げた。
「……後でとっちめてやるんだから!!」

「あはは…─────」

急にふっと気難しそうな
表情をしたリンクに気がついて
ゼルダが再び口を開いた

「…どうしたの?」

「僕、小さい頃ロフトバードから
落ちた事って、あったっけ?」

うーん、と首をかしげた後にゼルダは
リンクをみた。

「…ない、とおもうけど?」


「そっか…」


なんだかよくわからない違和感に
襲われながらリンクは、
女神像へと着地したロフトバードから
ゆっくりと降りた。

女神像の…掌だ。
リンクの相棒も少し遅れて
やってきた。

「それじゃあ、儀式をするわよ
リンクそれ、かして。」

言われて、持っていた
木彫りの像を手渡した…

ゼルダは
女神像にあるくぼみに
それを飾り、

女神に向けて祈りを始めた。

「女神ハイリア…古より我らを守り導きたる貴方に代わり、儀式をとり行う事をおゆるしくださいそしてどうか、祝福を、」

代々とりおこなわれている
伝統的な儀式だ。

緊張して自然と背筋が伸びるが

柔らかなハープの音に段々と
気持ちが落ち着いていく、




不意にハープをひく手をとめ、その手をこちらへ差しだすゼルダにリンクは自然と膝まずき、自分の右手をそれにのせて、頭を垂れた。

ゼルダが大きく深呼吸をして、彼女も、緊張していることにきがついたリンクはこっそり、笑みを浮かべた…

「鳥人の宴により、勝利を納めし若人よ、古きならわしに従い、女神よりの祝福…空舞い降りし白き帆をそなたの手に…」
ゆっくりと手を離し、肩に巻いていたパラショールをはずすとゼルダは
嬉しそうに笑った

「…進級おめでとう、リンク!!」

「!…あ、ありがとうゼルダ」
ゼルダの言葉にじんわりと
暖かい気持ちが広がっていく…

びゅうびゅうと吹き続ける風が

二人の間を駆け抜けた。


「あのね、リンク…その、良かったら……とてもいい天気だし…風も気持ちいい時間帯だし……その、…」



「少し空の散歩をしない?」



───…ゆっくりと、



止まっていた筈の時間が、



再び、動き始める…


「うん、いいよ」

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