ギラリン長編小説〈青年編〉

□鳥乗りの儀
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「バドさんこれでリンクの奴
留年決定ですね!」

大切な儀式をこれ以上
遅らせるわけにはいかないと
儀式の説明を始めたホーネルの様子を見るやいなや、
にやにやと意地の悪い笑顔を浮かべながら
耳打ちするラスにバドは悠然と腕を組んだまま、
おう。とだけ答えた

心なしか余り楽しそうではない。

「バドさんどうしたんですか?」

妙なところで勘の良いオストに
訪ねられてバドは片眉をつり上げ、
なにか言おうとしたが
代わりにため息を吐き出した
「いや、なんでもねーよ。」

正直、彼はリンクと
正々堂々と勝負がしたかったのだ

自力で優勝して、

ゼルダのパラショールをてにいれて、

文字どおりリンクの奴に

ぎゃふんと言わせたかった


だが実力勝負したところで
リンクに勝つことは出来ない。

バドはそのことをよく理解していた。

いつだって、そうだった

彼が何日もかけて練習した剣も
一生懸命に覚えた勉強も

リンクはなんの苦労もせずに
簡単に身に付けてしまう。

いくら努力を重ねても
次の日には直ぐに追い越された。


はじめのうちは
対抗心を燃やしていたが、

なんども圧倒的な差を感じるうちに

面倒だと思うようになってしまった。

正々堂々なんて、
面倒くさいだけだ。

毎日毎日努力したって成果なんて
全く現れない。



卑怯な手を使ってでも

勝てるなら、と、


そう思うようになってからは
随分と楽になった

リンクの教科書を隠したり

剣を雲海に落としたり


多少の罪悪感を感じてはいるものの

最早諦めをつけてしまったバドは
終わりよければすべてよし!
と、おもっている。

…たいがいはゼルダに
邪魔されてしまうのだが…


だから今回も同じように
リンクのロフトバードを捕まえて
滝の洞窟裏に隠した

卑怯な手だが今更だ。


「…リンクは間に合いそうにないな……非常に残念だが……では、
試験を────」


「?」
ひらりと風にのった赤い羽が
バドの顔にぶつかった。

「先生!!待って!!」

ゼルダの声だ、

と、いうことはだ、

「ごめんなさい!!」

謝罪の声を聞きながらバドは
地面に落ちた羽をつまらなそうに
つまみ上げる

「げぇ!!リンク」
隣にいるラスが大袈裟に声をあげた。

するとゼルダがキッとラスをにらみつけたが彼女は、何も言わなかった。
先に言うべきことがあったからだ…
「ホーネル先生、リンクのロフトバードが見つかりました。」

その言葉にホーネルは良かった良かった、と頷いてほほえんだ
「さて、どうやらリンクも間に合った様だし、改めて、鳥のりの儀式をはじめるとしようか、」

バドはなんだか安心した
リンクの表情が気にくわなくて、
わざとらしくリンクと肩を組んだ

「よぉ、リンク、テメエのフライドチキンどこにいたんだ?残念だなー?あともう少しで留年できたのにっ」
耳元で囁いてやると
ギリギリと歯を食い縛る音が
聞こえた。

「…お前、僕のロフトバードに、
よくもあんな酷いこと!!」

リンクの腹の底から絞り出すような
声に幾らか気持ちがスッとして
にやにやとえみを深めた

「おぉ、怖い怖い、」
リンクのひじが勢いよく
腹に当たる前にパッと離れる

「お前がロフトバードを隠したこと!!しってるんだからな!」

キッと青い瞳がこちらをにらんでくる。


そんな様子にバドは肩を
すくめてみせた。


「…ま、儀式の途中でうっかり
落っこちないように
きをつけるんだな!!」
その言葉をきいたのか、
ゼルダが怪訝な眼差しで
此方を見てきたが

構わずにバドは
白線の前に立った。

アウール先生の
黄色いロフトバードが
空へまいあがる。



瞬間、破裂音がして、


白線に並んでいた生徒らが
一斉に飛び出した




…鳥のりの儀が、始まった。

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