ギラリン長編小説〈青年編〉

□安堵
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「紅いロフトバード?…俺は
みてないな今日はほら、
鳥乗りの義の準備でいそがしくて、
空を飛ぶ暇さえなかったんだ…」

バード兄妹のパロウは済まなそうに言った。


「そう、ですか…」



スカイロフトの住人に
訪ねてまわったが

やはり鳥乗りの儀の準備等に
追われて誰一人、リンクの
紅いロフトバードを見かけた
人間はいなかった。
「うわああ、どうしよう…」
言葉とともに頭を抱えて
その場にしゃがみ込む。




ゼルダが掛け合ってくれてなんとか
試験開始時間を
遅らせてもらったものの、これでは
もう、間に合わないかもしれない、

そもそも、僕のロフトバードに、

何があったのだろうか?

まさか、魔物に襲われて…

そういう事が無いとは言いきれない…

もしかしたら、もしかしたら、

死…────「リンク君!」

最悪な展開を思い浮かべた時に
聞き覚えのあるハキハキとした声に
呼ばれて直ぐに振り向いた。

「キコア先輩??」

そう。声をかけてきたのは
リンクよりもひとつ上の先輩、

キコアだった。


「少し良いかな、」
訪ねられて、

目立つけれど
不思議と彼に良く似合っている
芥子色の制服を
まじまじとみつめながら

リンクは頷いた


「あ。でも僕…
ロフトバードを探していて…すみません手短に…「その事で、セバスンが
話をしたいそうだ。」

言葉を遮ってからキコア先輩が
後ろに振り返った、

「え?セバスンが?」

先程セバスンにも
訪ねたのだが、知らない、と
彼は言っていた筈だ…


つられて同じ方向をみれば
キコアの後ろにセバスンが
申し訳なさそうに立っていた

「あ、あのね、リンク…じ
…実は、…君のロフトバードを滝の裏に隠してしまおうって……」

そこでいったん
キョロキョロと辺りを見回してから
小さな声でセバスンは続けた。

「バド達が、食堂で話を…、僕、それをきいちゃって、…ご、ごめんよ。リンク…誰にも言うなって脅されてたんだ」

「大丈夫、今からなら試験に間に合うかも……時間もまだあるし」

泣き出しそうだったのでリンクが
慌てて言えば少しぐずりながら
セバスンは再び謝罪した…

「本当に、ごめんよ…」

「いいってば、仕方ないよ…」

苦笑しているとキコア先輩が
タイミングをみはからっていたのか、
剣を差し出してきた。

「まあ、仲直りよりも先にロフトバードを探しに滝にいくのが先決だ。リンク君、これをもっていくといい…あそこは危険だからね、」


「…これ、剣道場の?」

どんな場合も剣は
道場から持ち出しては
いけないはずだ…

優等生のキコア先輩がまさか、


「ああ、こっそり持ち出したんだ、
…緊急だから怒られないさ。」

しれっとそういうキコアに

驚いて瞬きをしていると
パッと剣を投げられて
反射的に受け取る
「僕はゼルダ君に君の事を話してくる。早くしないと試験に間に合わないぞ、リンク君!」


「あ、ありがとうございます!」
すこし戸惑ったが

剣を背負うと

その場をあとにした…





暫く走れば直ぐに滝が見えてくる



スカイロフトは広いようで


案外、狭いのだ

小さな頃はもっと広い場所だと
そう思っていたけれど

今は、…なんだか、狭くかんじる…


「…駄目…か、」

滝に近付いて辺りを
みまわしたが外側から
裏に回り込める場所はなさそうだ…


ロフトバードで飛んでいけば
ものの数分で滝裏につくだろうが、

肝心のロフトバードが居ない今は、
滝の洞窟内を通るしかない。

剣を貰っておいて大正解だ。

「確か、この辺りに入り口が…」

岩肌に鬱蒼と生えた木々を見つけて、
剣で切り裂けば、そこに

ぽっかりと洞窟が現れた。



その瞬間、不思議とロフトバードの
声が、聞こえた気がして、
感覚を研ぎ澄ますように
暗闇を睨み付けた…


「……この先にいる…」

集中してみれば
たしかにロフトバードの
気配を感じる、

どうやら閉じ込められているようだ


急いで助けないと…

無意識に足を進める速度が早くなる


暗闇に慣れるまでそう
時間はかからなかった…


進み続けていると上の方から
水滴がひたりと落ちてきて、
服に染み込んだがそんなことに
気が付く余裕はない



何かが、暗闇の中を蠢く音が
聴こえていてそちらに神経をめぐらせていた…

恐らく魔物に違いない。
安全だと言われるスカイロフトだが
この洞窟はどうやら魔物には
住み心地が良いらしく、

人が足を踏み入れないという事も
重なって、今は魔物の巣窟と化している…



鞘から剣を引き抜いて
刀身を剥き出しに、

警戒しながら

洞窟内を進んでいく…

夜行性である魔物は
今、眠りについているはず。

運がよければ
襲われる事はないだろうが、

そう物事はうまくいかないものだ


鼓膜を震わせた嫌な鳴き声に
顔をしかめ、音の方向へ
剣を降り降ろせば

ギャッという短い悲鳴と共に
独特の匂いが辺りにひろがる。


飛びかかってきた魔物はキースだった。

洞窟等には良くいる魔物で

テリトリーに近づきさえしなければ
攻撃はしてこない。魔物の中ではそれほど
好戦的な生き物ではない、


死体に触れようとしたが

発火音と共に紫色の炎が
その死体を一瞬にして
焼き付くしてしまった…



魔に属する生き物はそれぞれ
魔力という力を持っているらしく
死ねば行き処を失った魔力が
暴走を起こしてこのように発火する。


時折、体の一部だけ燃えきらずに
残ったりすることもあるが
大概は全て燃えてしまう。

剣にこびりついた魔物の血が
視界に写って罪悪感が押し寄せる




魔物と言えど殺すのは
あまり好きではない

たとえどんな姿形でも
彼らが生きている事に
変わりはないのだから…


これ以上無駄に剣を振るう前に
洞窟をぬけよう

決めてから、



ロフトバードの気配を便りに再び
走り出した。

途中、ぬるぬると滑りやすい足場に
何度も足をとられて転けかけたが

構わずにすすんでいく


不意に

真っ暗な洞窟の中に
光が見えて、
「出口だ!」

そう、さけんでいた


相棒の気配も近い!!


真っ暗な洞窟から
明るい外へ飛び出すと

太陽のひかりが眼に染みる

「…っ…」

眼をかばいながら
ふらふらと岩肌に添って
狭い道を進めば、

開けた場所に着いた。


恐らく秘密基地のような
場所なのだろう…頻繁におとずれているらしく、隅の方にバドのロフトバードの羽が落ちていて、…

偶然

その羽溜まりの中に

赤色の羽を見つけて、


そのまま


真っ直ぐに前をみれば、

ピッタリと金色の瞳と

視線がかち合った

真っ赤な体毛と羽を持つ
その生き物はまぎれもなく

僕の、…紅いロフトバードだ。


急激な安堵に、ため息が漏れる

ガリガリと引っ掻く音がして
よくみると、

リンクのロフトバードは
岩肌にある窪みに
太い板で蓋をされて、
閉じ込められていた

勿論、バド達の仕業に違いない。

「…何捕まってるんだよ…」
脱力してそう言うと
ロフトバードはうらめしそうにないた。


「まってて、いまだしてあげるから」

板を固定している縄を
剣で切断すればガコンと音がなり、
それと同時に紅いロフトバードがとびだして大きく羽を広げてみせた。

少し不機嫌そうに体を揺すっている

そんなロフトバードを安心して
眺めていたリンクだったが
突然聞こえた羽根音に

振り向いてみると

丁度ゼルダが青いロフトバードから
飛び降りたところだった…

「ゼル「貴方!また無茶したわね!!?」
一歩一歩に力を込めて近づいてくる
ゼルダはどうやら怒っているようだ

「え?ゼルダ??あ、僕のロフトバード見つかったよ??」

訳がわからずにそう伝えてみたが
あまり効果は無いらしい
「話をそらさないで!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る様子からして
さらに腹をたてたみたいだ。

「そんなつもりは…」

何気なくゼルダをみれば、

水色の瞳が不安に揺れていた。

「…怪我は…してない?」

やっと彼女がおこっている
理由に気がついてリンクは
気まずそうに頷いた

「ごめん、ゼルダ…」

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