ギラリン長編小説〈青年編〉

□早朝
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く、く、と

不気味な笑い声が
部屋の中に響き渡る…

そこ、は

古い人々が自らの手でつくりあげた、

とある神殿…

永い時により、聖地としての力は失われており、魔物が巣喰ってはいるが

みるものがみれば
圧倒され、見とれてしまうほどに
とても美しい建物だ


しかし残念なことに

何百年ぶりに神殿へ
足を踏み入れた者は

全く感心を示さなかった

笑みを浮かべてはいるが、
決して神殿の美しさに対して、ではない

壁に描かれた情報、
その情報に
身を震わせるほど、


歓喜しているのだ…



神殿の装飾など、男にとっては
ただの石の塊にすぎない


「やっと、…やっとだ……」
綺麗に弧を描く唇の隙間から
ため息混じりの声が漏れる

何百年もの長い間
この情報を手にしたいがために
奔走していたがそれも
今日で終わるのだ、

「必ず、必ずこの私が救って差し上げます…魂を共に、再び戦いましょう…」

ゆっくりとした動作で
方膝を地につけ、

まるで目の前に誰かが
存在しているかのように
男は頭を垂れた

「マイ・マスター…!!」



立ち上がると。


耳元で淡くひかるそれに
気がついて

手を這わせた

優しい手つきだが
先程までの笑みは


どこにも見当たらない


「…────」

何を考えているのか分からない
混沌とした色を真っ黒な
その瞳に抱かせて


利き腕を挙げると

神殿の中に

綺麗な指音を響かせた






そこから、

何千メートルもはるか上空、

空に浮かぶ島、スカイロフト


スカイロフトの名物でもある
真っ白な女神像は太陽にてらされ
まるで輝いているようにも見えた

そんな神聖な空間を
引き立てるように

美しいハープの音が流れ

歌声が舞う

その歌声の主であるゼルダは

この歌を

死んだ母から教えて貰った。


いずれ何年か何百年か未来に
勇者は現れるのだと母は

幼い私に

繰り返し

繰り返しこの歌を聞かせてくれた




勇、者…


勇気ある、もの…


本当にそんなひとが
あらわれるのだろうか?


何のために?


「ゼルダ!」

ピン、とハープを奏でる手を止めて
みればリンクが息を切らして
笑いかけてきた

先程ロフトバードに持たせた手紙を
読んで、来てくれたんだ!

「みて!リンク」

嬉しくなってすぐに駆け寄り、
肩に掛けた真っ白なパラショールを見せる

「うわぁ、これパラショール?!
凄い…女神様の紋章まではいってる!」
キラキラと青い空色の瞳を輝かせたリンクに、自然と笑みが深くなる

「これは鳥乗りの儀で
優勝した人にあげるものなの、
…わたし…ね、リンクに…」


ドキドキと鼓動がうるさい…

赤い顔をみられたくなくて
ゼルダは後ろを向いて続けた

「できれば、リンクに…優勝…
して欲しい…だから、絶対…」

「優勝するよ!」

急に後ろから肩を捕まれた、
ふりむけば強い眼差しで
此方をみるリンクがそこにいた

真っ赤な顔に気がついただろうか?

いや、リンクは
鈍いからきっと気づかない

うん、大丈夫


「…約束…だからね…」


その言葉に答えようとしたリンクだが
ゼルダの向こうに見えた人影に
あ、と声を上げた。

「ゲポラ校長!」


「今日は珍しく早いな?リンク」

関心関心、と笑みを見せるゲポラに
色々な空気を壊されたゼルダは
すこしばかり不満そうに、腰に片手を当てた
「お父さん……
どうしたの?鳥のりの儀の準備は?


「すこしばかり退屈しのぎにな」

片眉をつり上げ、
ウィンクをしてみせるゲポラに


ゼルダはため息を吐き
リンクに視線を移す、

いつの間にかリンクは
少し離れたところで
両手を広げて大空を見上げていた


その様をゲポラも
眺めていたらしい

「わしはまさかロフトバードが
あの子の前に現れる日が来るとは
夢にも思っていなかった…」

感慨深げに、ゲポラは呟いた

「しかも、ただのロフトバードじゃない
絶滅したはずの紅族…あの
赤いロフトバードは間違いなく、
それだ…その上不思議な絆のようなものが彼らの間にある、…」


リンクが、
ゲポラの言葉に気がついて
照れくさそうに頭を掻いている


ふと、ゼルダはリンクに
初めて出会った時の事を思い出した


あの嵐の夜…


あれは、…

「ゼルダ?…気分でも悪いの?」

声に顔を上げればリンクが
首をかしげていた

「ううん、何でもないの!」



…リンクは、

スカイロフトで生まれた子供じゃない。


何処か、遠くで生まれた子供だ…

私と、お父さんと、先生たちの
数人しかしらない話…



あの嵐の夜に、

突然現れた男の人がリンクを
この騎士学校へ置いていった。

強い風おとに阻まれて私はその人が
何を言っているのか
きこえなかったけれど

お父さんには聞こえたみたいだった、




何日か後に目覚めたリンクは、
全ての記憶を無くしていた…

今まで何があったのかも
覚えていなくて、

自分の名前さえも…


彼は、覚えていなかった。


一緒に


初めてした会話はなんだったっけ?


今でも、鮮明に思い出せる




私が貴方に名前をあげた




あの日

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