ギラリン長編小説〈青年編〉

□暇潰し
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むかしむかし

魔族と人による
大きな戦争がありました、

大地から生まれ出た
残虐な魔族たちは
命溢れる大地にはびこり、
沢山のいきものを殺し、

勇敢な人間は
必死に戦いましたが、

人とは違い

強靭な体を持つ魔族に

弱り、死に絶えていきました

滅びていく大地に
涙をながした女神ハイリアは

生き残った人を空へと逃がし…

魔王が狙う古の力を守らせました

そして

ハイリアは地上に残ると、
僕である亞人たちと共に
命を賭けて戦い

遂に、

「魔王を封じたのです」

やっとそこまで読み終わって
古びた本を思いきり閉じれば、
僅かにほこりが舞い上がり
反射的にごほごほとむせた


スカイロフトに伝わる伝承を
どれよりも詳しく記すこの本は

ついさきほど教室にある
本棚の隙間からこの青年、
リンクが偶然見つけ出して

暇潰しに読んでいたのだが、

長い間放置されていたせいか

劣化していて三割程しか
内容を読み取ることができず


結局、

暇潰しにはならなかったようだ、





いよいよ、

明日は鳥乗りの儀、

この学校の進級試験がある…

合格した人は騎士として認められ

騎士を示す服を貰うことができる
スカイロフト唯一の騎士学校の伝統…


その、準備に追われて

なんだか今日のスカイロフトは
慌ただしい雰囲気をまとっている

幼馴染みであるゼルダも
鳥のりの儀の為に
一生懸命何かを作っていて
相手をしてくれないし


「退屈だぁ…」
ぐぐっとのびをして何気なく
黒板を見ると、綺麗な文字で
[黒板は綺麗にしよう!]と書かれていた


綺麗好きなキコア先輩が
気難しそうに腕を組み、
落書きだらけの黒板に
向き合っている姿はまだ
記憶に新しい…

よくみれば黒板は何時もより念入りに
掃除されている

キコア先輩、といえば

去年の優勝者はキコア先輩で、

あの人がもらっていた騎士服の色は
芥子色だった。目と髪が茶色い
キコア先輩には以外と似合っていて…


優勝で貰える
騎士服は年度ごとに色が変わる。

今年のカラーは確か…




…あれ?


なんだったっけ

えっと…

「緑だ!」

目の前を通った緑色に
おもわず口にだしてしまった。

その瞬間

まずい、と

すぐに視線をそらすが

しっかり聞こえていたらしい


リンクよりもずっと背の高い
その青年は眉間に皺を寄せ、
此方をジロリと睨んできた…

「何だよリンク!俺の服に
文句でもあんのかよ?あ?」

飛行訓練をしていたのか、
変な…いや、流行の最先端であろう
真っ直ぐに逆立てた赤髪がやや、乱れている

「あ、違うよバド、
僕は今年度のカラーをね「いいか!
今年騎士になるのはこの俺、
バド様だ!!お前は惨めな落第生!そして、」
ビシッとリンクを指さして、
バドは続けた

「幼馴染みだかなんだか
しらねぇが!騎士になった俺が
ゼルダからてめえを
ひきはがしてやる!!」

覚悟しておくんだな、と
腰に手を当てて一見、
余裕そうにしているが…
「…バド、もしかして、君
緊張、してる?」

小刻みに震えている手に気がついて
リンクが首をかしげると
胸ぐらを掴まれ、乱暴に引き寄せられた
「うわっ!?」
「んな訳ねぇだろうが!!つーかな、
テメェこそ何、こんなとこで
のんびりしてやがるんだよ!!
なんだ、あれか?僕は優等生だから
練習しなくても何でもできるんです〜って、言いてぇのか!?」

流石にムッときて口を開いたが、
バドの後ろに見えた姿にそれを止めた

「あ゛あ?何ボケッと「バド!何、してるの!?」

いつの間にかやって来たゼルダが
ずかずかと足を進めリンクとバドを
引き剥がすように間に割り込むと
バドを睨んだ

「貴方は!何でそう何時もリンクに突っ掛かるのよ!!」
「あ、いや俺はその、こいつが」
しどろもどろになり
弁明を始めるバドは昔から
ゼルダにだけは弱い

惚れている、からだろうか?

「なに、よ!?」

何事にもしっかりしている
ゼルダだが恋愛に置いては
かなり鈍く、見ていてバドが
可哀想にも思えてくる…
「別に…何でもねえよ、…」

少し言い淀んでいたが、
舌打ちをして、バドは不機嫌な表情のまま自分の部屋へと歩いて行く


ゼルダはその様子を見届けてから
「あ、ほら!見てリンク、この服!」
思い出したように振り返った。
「?」
つき出された服を眺めていると

ゼルダは深いためいきをついた後に
大事そうに持っていた服を広げ
「女神さまの服!」
誇らしげに笑顔でそう言った。

それで、やっと理解出来た

今年はゼルダが
女神様役に選ばれたんだ

とても、重要な役割で、

女神様役に選ばれた人は
今は亡き女神に代わり、
鳥のりの儀で優勝した人に
儀式を取り行うのだ

「凄い!!ゼルダが女神役なんだ!
その服、作ったの?」

「ちがうの、これはお父さんからもらって。女神様が来ている服を模して作られたものなんだって!」
張り切るゼルダになんだか
楽しくなって頬が緩む、


「へえ、そうなんだ!
…?…さっき、作ってたのは?」

先程リンクが部屋を尋ねた時、
大切なものを作っているから
入るな、と部屋にいれて
くれなかったのだ、

「明日完成するからそしたら
一番に、貴方に見せてあげる」

女神の服を抱え直すと、
悪戯っぽくわらってゼルダは
背を向けた。
「だから、続きをやらなきゃ!
また明日ねリンク!」

小さく空いた手をふるゼルダに
リンクは利き手を軽く挙げた

「うん、楽しみにしてるよ!」


別れてから、


特になにもすることはなかったので

リンクは自分の部屋に戻る事にした…






自分は



騎士になれるのだろうか?


ドキドキと鼓動がうるさい

やはり少し緊張してしまう

緊張をまぎらわしたくて、

ベッドに横になると以外と
疲れていたのか、

直ぐに眠気が襲う

ふと、窓の外がもう
夕方になっていることに
気がついて、
あの本以外と暇潰しに
なってたんだ、等と

どうでもいいことを考えながら


リンクは瞳を閉じた…

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