ギラリン長編小説〈少年編〉

□鉱石
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ギラヒムは何度目かの舌打ちをする。

強烈に腹が立っていた。

いわゆる「八つ当たり」を
しながら、洞窟へと、足を運ぶ。
そのおかげでこの辺りの木々は

酷いありさまだ。

そして洞窟の入り口で、
小鳥と、戯れている少年の
姿をみつけ、なんとも言えない
心境で一見した後、周りに集まる
鳥達をわざと蹴散らすように
ギラヒムは近づいた。

「イアン君。
怪我の調子はどうだい?」

名前を呼ばれて、というよりも
飛び立った鳥たちの羽音で
イアンが此方を見る。
純粋な笑顔を向けるイアンを見て、
心なしか幾分、苛々とした気持ちが
なくなった気がするが、
恐らくきのせいだろう。

「ギラヒム!…あ……痛みは
もうほとんどないよ…あれ?
…どこ行ってたの?」

少し汚れたマントに
気がついたらしい、
全く、妙な所で勘が良い。
舌打ちをしたくなる気持ちをこらえ、
変わりにため息を吐き出した。

「ああ、少し気になることが
あって軽く調べてたのさ。
そうしたら厄介なのがいてね。
少々てこずったんだ。」
ギラヒムはうんざりした顔をしてイアンをみる。
「大丈夫なの?」

その時、
心配そうに此方を見るイアンの胸元で、キラリと何かが光った。
「ああ、」

気になって良く見てみれば

光源は、イアンが何時もつけている
簡素なネックレスからだった。
どうやら太陽の光を反射したらしい。
そういえばこの少年は何時も
このネックレスをしている気がする。

「…何時もつけているね?」

イアンは突然の質問に瞬きをしてから
ギラヒムの指差したものを見た。
少し間を開けてからハッとして

「あ、これ?」と、イアンは
青色の鉱石がついたネックレスに触れる。

「スカイロフトに伝わる守護石なんだ。災厄から、守ってくれるとか、願いごとが叶うとかいわれてる。」

イアンが説明すると、その間ずっと
考え深げに守護石をみていたギラヒムは
何かに気がついたらしい、

「ちょっと見せてもらってもいいかな?それ、」

「あ、ちょっと待って」

言われて、イアンが守護石を渡すと

ギラヒムは何かを確認するように
手元で弄んでから徐々に魔力で、
守護石を包み込んだ。

すると、次の瞬間、
守護石が強く青い光を帯びた。
「うわ、!」
眩しくて
イアンは思わず目をつむった

「…やっぱりね、
なかなかいいものじゃないか。
肌身離さす身に付けるのは正解だよ。」
その変化に満足したように笑うと、
ギラヒムはイアンに守護石を返した。


「何だったの?今の光…」

イアンは不思議そうに
返された守護石を
太陽に透かしてみた。
何の変化もないが太陽に照らすと、
青い鉱石はまるで、小さな泉の中の景色を切り取ったかのような、幻想的な光をつくりだしていた。

「まあ、一種の
結界みたいなものだよ。」
夢中になって鉱石を観察しているイアンを頬杖をつきながら面白そうに見て、ギラヒムが答える。

「結界?」

「そう。結界さ。…鉱石の中には
魔力を感じるとさっきみたいに
結界を張る物があるんだけど…
イアン君の持っているものも
それと同じらしい。」

「へえ、」
イアンは改めて鉱石を見た。
相変わらず太陽の光を吸い込み青い光を生み出している。


「まあ、この大地にいるなら
持っておいたほうがいいだろうね
気休めにはなる。」
ギラヒムの言葉にイアンは
眉をよせた。
「ここって、そんなに危険な所なの?」

イアンは大地に落ちてきて
まだ魔物に出会った事がない。
当たり前の反応だろう。
…まあ、それというのも
魔族長であるギラヒムが近くにいる
おかげで、好戦的な魔物ですら
恐れをなして逃げてしまっているせいなのだが、

なんにせよ、戦うすべを持たない
イアンが魔物に出くわして
生存出来る可能性はゼロだ。
…そうなってしまえば
唯一、強力な結界によって
守られているあの神殿に入れる機会も
失ってしまうだろう。そうすれば
マスター復活への手掛かりも
消え失せてしまう。

「…特に君は怪我をしているんだし、むしろ…私がいない間は
絶対手放しちゃいけないよ?」
「?。うんわかったよ、」
少し間があってイアンは疑問を
うかべたままだったが
とりあえずは納得したらしい。

…そんなやり取りの間にも、

青い鉱石は変わらずに光を集め
イアンの胸元でゆらゆらと、

淡くかがやいていた。───…

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