ギラリン長編小説〈少年編〉

□決意
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地上より、遥か上空、

スカイロフト。


数日前乱気流に襲われ、
子供たちが怪我をし、その内一人が、
行方不明になったお陰で
大人達は心中穏やかではなかった。

魔族の仕業ではないかと
話す者達さえ、いた。





「ハイリア様、住人達が、怯えているようですが…いかがなさいますか?」


きびきびと、メリハリのある口調だ。
褐色の肌に、顔にいくつものタトゥーを入れているこの 女性は、インパという。

女神ハイリアに選ばれし
守護者の一人だ…

「恐れる事は有りません、
あれは魔族の寄越したものでは
無いのですから…」

絶世の美女、とでも言えば
良いだろうか、美しい女性であり、
神であるハイリアは優しくそう、言った。
「少年が一人行方不明だと、
しかし……おそらくもう…」

そこまで口にして、
インパは口を閉ざした。
女神の前で口に出すべき言葉では
無いと、そう思ったのだ。

「…そう、ですか…」

悲しげに瞳を揺るがせ、
ハイリアは俯いた。

ズキリと、肩のキズが痛む。
十年前に終焉の者につけられた

呪いだ…

不死であるがゆえに、
死ぬ事はないがやはり
呪いであるがゆえに
治りが異常に遅い。

今の状態で封印が
解けてしまいでもしたならば
ひとたまりもないだろう。
いくら人の姿を奪ったとはいえ
やはり、あの男が
魔王であることには何一つ
変わり無いのだ…

ズキリと、傷が再び、痛む。
…急がなければ、


封印を完全にし、
勇者が現れるその時まで、
保たなければ、


そして顔をあげると、

金色の髪をさらりと風になびかせ、
ハイリアは悠然と、口を開いた。


「インパ……」
眼差しから読み取れるのは強い決意。

インパは頭を垂れ、
ハイリアの言葉を待った。


「女神の剣を、創ります」

その言葉にインパはおどろき、
ハイリアの顔を勢い良くみあげた。
「な、なりません!ハイリア様!!!それは禁じ手です!あれを造るには人の魂が、必要不可欠…そんなこと…」

動揺するインパにハイリアは、
静かに口を開いた。

「人を、殺しはしません、…インパ、
魔剣を覚えていますか?」

唐突な問いかけにインパは疑問を覚えつつも頷いた。
「存じています。」

確か、終焉の者を封じた後、
強力な封印を施した神殿に封じた
あの、黒剣の事だ。


「……あれは何千、何万という。
人を切り、鍛え上げられた魔剣、それゆえに当然、内に秘める力は
莫大な筈。……」

「まさか……魔剣の力で剣を、…」

見上げたハイリアの表情は、

あくまでも冷静だった.

「…勇者に、戦うすべを
残さねばならないのです。
しかし、今の私だけでは
やり遂げる事ができません、…
インパ…手伝って頂けますか?」

そんなハイリアに苦笑を、漏らし、
インパは、再び片膝をついた。

「勿論です女神、ハイリア」


「ありがとうインパ…」

彼女は笑う。

人を、世界を、守る為に

その思いが

運命を動かす事になるとは、


知らずに…

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