ギラリン長編小説〈少年編〉

□思惑
1ページ/1ページ

美しくみずみずしい森に
似つかわしくない匂いを感じて、
彼は足を止めた。

「この、匂い………」

それはギラヒムの
よく知った香りだった。

馴染みのある懐かしい匂いだ
悪い気はしない。

自分が剣として

あるがままに生きていた…

あの時、あの瞬間を思い出す…

……マスターが俺を使えば、

一瞬で命なんてものは消し飛び

人は悲鳴をあげて赤い体液を
撒き散らす。


俺は使われる度、
全身に血を浴びる度に歓喜した。

俺が剣であることの

証明だ!

証だ!!!
これが、俺のあるがままの姿だ!

マスターの剣であることが
誇りだった。

びちゃ、と音がして
現実へ引き戻される。

「……ん?」
少し、過去の記憶に
浸りすぎていたようだ。

血だまりを踏んづけたようで
真っ白な衣に血が付いた。

若干眉間に皺を寄せ、
ため息をつくとそのまま彼は
歩きだす。

血の跡を辿りながらしばらく歩くと

すこし開けた場所に付いた。
木漏れ日がちらちらと
うっとおしく感じて目を細め
血痕の先を見やると、

「これはまた………珍しい。」

目前の木の根本に久方ぶりに見る
生き物がそこにいた。

「…だれ、?」

ギラヒムの気配を感じたのか
青い瞳が此方をぼんやりと
眺めてくる。

空から落ちてきたのは
人間のこどもだったのだ。
ギラヒムは近づいて、
容態を調べてみたが助かる確率は
かなり低そうであった。

「フム、そうだな」

本来ならば苦しまぬように
殺してやるのが魔族の礼儀………
なのだが、



マスターを復活させるためならば
使えそうなものは何でも使いたい。


この子供は使える。


女神が空の上で、
封印されたマスターを
完全に消滅させようとして
着々と計画を練っている今、

ゆっくりなんてしていられねえからな

こいつ、利用してやろうじゃないか


意識を失いつつある少年に目線を会わせると、ギラヒムは
ニヤリと笑いかけた。

「なあに、君の命の恩人さ!」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ