ギラリン長編小説〈青年編〉

□心の底に
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真っ暗な森の中


血の海が広がっている。


黒い血だまりのなかで
男がそれを眺めていた

それとは肉片だ

男の部下のもので…


みせしめのために
バラバラに切り裂いたのだ

仲間の目の前で、

丁寧にきりさいてやったのだ、

暫くすると細切れになった部下は
息絶え、
紫の炎があっという間に肉片を
包み込み燃え盛り
何事もなかったように消え失せる…

死に際の断末魔さえない
死体も残らない

なんてあっけない死に方

これでは男の苛立ちを消すことすら
できないだろう。

…案の定男は

冷たい氷のような表情のままぴくりとも動かずに静かに口をひらいたのだ、


「役立たずは要らないんだよ」


そう吐き捨て、ギリリと
歯を噛み締める




目的の少女を竜巻に襲わせ、
大地に落とすまでは上手くいった、


上手くいっていた…



「…あの老婆め、
女神の老兵ごときが、…よくも!!」
男が素早く手で、空を切ったと
同時にスパッと小気味良い音がして
近くの岩が真っ二つに割れる

「あと数分、あと数分早ければ
マスターを、わが主、大地の王たるに
最も相応しい我がマスターを甦らせる事が出来たものを………まあいい」

あの小娘が大地にいる間は
焦る必要はない。やっとマスター
復活への手懸かりを見つけたんだ、

そんな今だからこそ、
慎重に動かねばならないのだと
自分に言い聞かせ

不意に夜空を見上げる

それは男にとって、
無意味としか感じられない行為…

だが

前にもこうして空を
見上げたことがある。


あの時は、


「イア………」



おもわず滑り落ちかけた言葉に
ハッとして俯いた…

大昔の話だ、


どこかの時代に置き去りにしてきた

自分の気まぐれにしかすぎない
あの日々…

手元に残ったのは、水色の鉱石だけ。


今更後悔など、


「馬鹿馬鹿しい」

…ざわつく心が疎ましい…


こんな心、感情なんて
余計なものなんて

要らない!!



ふつふつと込み上げた激情に
身をまかせると男は耳元に
着けていた鉱石を乱暴に外し
地面にたたきつけ、

思いきり踏みつけた。


鉱石が地面と擦れ
ガキッと音を立てる…


その音を聞いた瞬間
冷水を浴びせかけられたように

サッと心が冷えた。

…まさか…壊れたのではないだろうか?
一瞬ためらったが、恐る恐る
足をどけ、土に汚れた鉱石を
拾い上げてみると、

どうやら鉱石は無事のようで、
以前とかわりなく男の手のひらで
淡い水色の光を放っていた…

「……ふ、」

気まぐれにしかすぎないはずの
あの日々をいつまでも、

女々しく、引きずっているのは

後悔しているからだ

「ふ、ふふ、」
自嘲の笑みがこぼれる

「俺は、いまでも」


その先を口にすることはしない。


大地を主人と共に支配して、
すべてが終わるその日まで



固く心の底に
しまっておかなければ
ならないのだから…




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