ギラリン長編小説〈少年編〉

□望み
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(sideギラヒム)


脇腹に突き刺さった光の弓矢のせいで。
上手く体が動かない、

前回受けた傷が
全く癒えていない上に
再び光の弓矢を喰らったのだ、


体が軋む…

いや、今はそんな事はどうでもいい、



ここはどこだ
見覚えがねぇ場所だ



強制的に移動されたのか?


イアンは無事なのか、


女神と、何か争っていたような、

くそ、せめてこの酷い痛みが
どうにかなれば、


「ッギラヒム!!!」

突然聞こえた声にハッとして、
間一髪、白い刀身を受け止めた
同時に、ガン、と激しい
金属音が辺りに響く、

予想以上に
五感が鈍ってしまっている、

イアンが、何処かに
いるようだが、どうやら
気を散らせている場合では
ないようだ、

「っ……忌々しい女神め、」

ハイリアはギラヒムを見据えると
ゆっくり、口を開いた。

「一人きりの貴方では
この剣にやどりしファイと、
私には絶対に、勝てない」

その言葉に底知れぬ怒りが
溢れ出す…

俺から、マスターを
奪ったお前が、



それを、いうのか!!


いい、だろう、




「───その、剣、…
へし折ってやる!!」

その言葉とともに、
黒い、炎がギラヒムを、覆い、
恐ろしいまでの殺気が、
辺りを支配した、


「っ……」

しかしハイリアは怯まずに
あくまで冷静に剣を構える。


ギラヒムは、黒炎を振り払うと、
まるで闇を切り取ったかのような
真っ黒な姿を表した

そうして、一瞬で、
距離を縮め、最早常人には
見えないほどの
素早さで斬り込んでいく、


その斬激ひとつひとつを
見極め、ハイリアは
裁いていく、が、
右腕が。痛むのか、
時折表情をゆがめている。
斬り込んでいく、うちに
それに気がついたギラヒムは、
口角を吊り上げた、
「────どうやら未だ、
その怪我は完治して
いないようだな、ハイリア!!」

「っ、…」

右側からの斬激を何度も
仕掛けてくるギラヒムに、

手放しそうになりながらも、
ハイリアは剣を振るった


しかし徐々に
体力を消耗して、

遂に剣を、
弾き飛ばされてしまった、

「ハイリア!!」

それまで、外野で、
眺めていたシーカー族の女が
声を上げた

近付かれたら…面倒だ、

ギラヒムは、指を鳴らすと
結界を作り出した

「!おのれ、ギラヒム…」

その結界に阻まれて、インパは
ギラヒムを睨み付けた


ふむ、少々取り乱しすぎたな、


さて、と…不安定な
結界が壊れる前に

女神ハイリアを痛め付けてやろう、

そうだな、最低でも百年は自由に
動けなくさせてやる、


「…この俺を軽く見た事、
後悔するといい…」

振り上げた黒剣を、
思いきり突き刺さす───

…はず、だった…



突然、背後から光の弓矢で、

突き刺され、
ギラヒムは激痛に顔を歪めた、

振り返れば、その先にいたのは
あの、シーカー族の女、だった。
「今です!!ハイリア!!」


「この、死に損ないがああ!!!」

剣を、振り払い、
その風圧で、シーカー族の女を、

吹き飛ばす、
「うっ!!」
吹き飛ばされたシーカー族の女は、
壁に激突し、意識を失ったようだ、


だが、痛みで
最早ギラヒムは、戦う所の話ではない

右手から、ずるりと剣が滑り落ち、
石畳を激しく叩く、

それと共にギラヒムは
痛みによろめき、絶叫した
「ッあ゛ぁあ゛あぁ゛あ!!」

ハイリアは、右肩を押さえ、
息も絶え絶えに
その白い刀身を真っ直ぐ
ギラヒムへ向けた

「魔剣、ギラヒム…貴方の、
永きに続いた孤独は、
これで、幕を閉じるのです…もう、
消えなさい、」





一ミリも、体が動かない、

俺はこのまま、

死ぬ、のか?


結局、


マスターを甦らせる事も
叶わぬまま、





たった一度で、よかった


一振りでいい、

俺は

剣として、生きたかった、




だが、
悪くない最後かもしれない


思えばこの、一週間は、
イアンのお陰で
知らぬ間に

充分過ぎるくらい
俺は満たされていた、
思えば
あの感情が、"幸せ"というもの、

だったのかもしれない

アイツは、俺のために


泣いてくれるのだろうか、

ああ、たぶん大泣きに違いない、

脆弱で、優しい、俺の────






ギラヒムが瞳を閉じたのと、同時に




ハイリアの投げた剣が、



ぐさりと、



突き刺さった。

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