ギラリン長編小説〈少年編〉

□黄昏時
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ハイリアは厳しい顔つきで
雲海をみつめていた。


血だらけになってインパが
スカイロフトに帰還したのはつい
一時間前の事だ…



相討ちに、なったらしい…


やはり、血を流さずに魔剣を
捕縛することは叶わないのだ


手負いになった今ならば、

恐らく、私でも、
捕えることならば出来るかもしれない、
いや、私がゆかねばならないのだ。


ハイリアは、剣を掲げた。

キラリと刀身が太陽の光を帯びる


この剣は、もうじき完成する。


勇者の為の、

終焉の者を消滅させるための



聖剣、として



この剣に宿りし
ファイは、まだ死んでいるような
存在だが…いずれは、

魔剣の力を取り込み

聖剣の、精霊として
目覚める事になる。



そして

私は…

「めがみさま!」


子供の声にハイリアはゆっくりと、
振り替える。


「どうしたのですか?もうじき、
夕暮れですよ、」
ハイリアが、やさしく問うと、
泣きそうな顔になって此方を
見つめてきた…

「……イアン大丈夫かな…」

イアン?
聞き覚えのある名にハイリアは
ふと、記憶をよびおこす。

───…確か、行方不明の、

あの、くるくると表情を
変える子供…

時折、私の弾くハープを聞きに
来ていたあの子供の事だ、




恐らくこの子は大人達の会話を聞いてしまったのだろう…


「大丈夫です。必ず帰って来ます」

ハイリアは出来る限り
やさしく、子供に触れた。

「でも、きしちょうさんは
イアンが死んだかもって…言うんだ、」

「大丈夫、あのこの赤いロフトバードは
まだ元気に生きているでしょう?…」

ハイリアのいう通り
イアンのロフトバードはイアンが
いなくなっても、意気揚々と
飛び回っている。

「うん、…そうだけど、」
まだ、不安そうにしている子供に
目線を、あわせてハイリアは
再び笑顔を見せた、

「ロフトバードはあなたたち一人一人と
共に生き、共に消えていくもの
なのです。…だから大丈夫、
必ずまた会えますよ、」

その言葉に安心したのか、
子供は笑顔になり、頷いた。
「───…うん、……そうだよね、
…ありがとう、女神さま!」


「気を付けて帰りなさい。」

「うん!」

元気にてを振り、小さくなっていく
後ろ姿を、ハイリアは
酷く優しげな表情で見守っていた。


暫く姿が見えなくなるまで
ハイリアはその方向を向いていたが

やがて剣へと、視線を移した。



「ファイ、聞こえて、いますね、…
……貴女は守らなければなりません、
勇者と共に、この世界を大地を、」


その言葉に
答えるかのように
淡く、剣が光る

ハイリアは

夕日へ、顔を向けた。


幻想的な風景の中を

赤いロフトバードが
雲海を滑るように
飛んでいる、


巣に帰るのだろうか、
それとも主人を探し続けるのだろうか、





───…もうじき、夜が訪れる。

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