短編
□花よりもなお
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小娘side
私は今とっても後悔している。
つい、つい!誘惑に負けて、自らを落としいれてしまった!
美味しい団子があるなどという、甘い誘惑に負け、薩摩藩邸に遊びにきたのがそもそもの間違いだった。
「ふん。そんな地味なナリをしおって。貧乏臭さが、さらに増しているぞ。」
挨拶も済まないうちに、どかっと先制パンチ。
大久保さんは軽やかに嫌味を言ってくる。
そうだよ。よく考えなくたって、この人はこういう性格だった。
「これは、寺田屋の女将さんが貸してくれた着物なんです!私がセーラー服着ていると目立つからって心配してくれたものなんですから、そんな言い方しないで下さい!」
私が怒ると、くくくっと笑う大久保さん。さっぱり笑いどころが分からない。
「たしかに、小娘の見目に、あの格好じゃあ新撰組ならずとも他の者の目を引くからな。」
脇に置かれた風呂敷包みをスッと引き寄せ、私の前にそれを差し出す。
「なんでしょうか?」
「これをお前にやる。開けてみろ。」
命令口調に渋々、包みを解き、そこにあるものを手にした。それは――。
「さあ、小娘。泣いて喜ぶがいい。」
高らかに言われるが、
「こ、こんなの頂けません!!」
私は中に入った着物を即つき返した。
大久保side
「…こんなのだと?」
聞き捨てならない発言に、眉間が寄る。
「そ、そういう意味じゃなくて。こんな一目見ただけで高級そうだって分かる着物もったいなくて貰えません!」
小娘は慌てながら、私の贈り物を指差す。
当たり前だ。お前に安物をこしらえる訳なかろうに。
「要らぬと言うならば、それはお前が処分しろ。」
不機嫌にそう言い捨てれば、小娘は目を丸くして驚いた。
「捨てるんですか!?それこそ、もったいない!」
根っからの貧乏性なのか、幾度も勿体無いを繰り返す。
「小娘。着もせずに要らないなどと言うものではない。処分する前に試しに羽織ってみろ。」
呆れ顔の私を伺い見ると、恐る恐るといった様子で袖を通した。