朝から繰り広げられる煌びやかで華やかな席。

 これが全て自分の為に設けられたのだと考えると何百年経とうがハンガリーはいつもひどくこそばゆい気分になってしまう。

「おめでとうございます、ハンガリー。今日でお幾つに…と聞くのは野暮ですね」

 苦笑するオーストリアにハンガリーはクスリと笑う。不器用な彼の不器用な祝いの言葉が嬉しかった。

「おめでとう〜ハンガリーさん!俺、プレゼント持ってきたんだよ!あけてみてよ〜」

後ろから飛び付かれて姿勢を崩しかける。
イタちゃ…イタリア君はいつも元気だ。

「ふふ、ありがとう。中身は何かな〜?」

「ドイツと選んだんだよ。ね、ドイツ!」

彼に腕を引かれ憮然とした表情に微かな照れを浮かべたドイツは鷹揚とも見える動作で頷いた。

「気に入ってもらえると嬉しいが…」

「二人が選んでくれたんだもの。どんなものでも嬉しいわ」

今日は一年に一度、この幸せな宴の主賓になれる日。

つまり今日はハンガリーの誕生日だった。

もっと豪華に、盛大にと言う各国を抑えて昔馴染みだけを迎えた一日だがそれでも例年沢山の国から贈り物や祝辞が届く。

自分が在ることを祝って貰えるなんて嬉しいことこの上ないし、例年幸せを噛み締める一日になるのだけど…ハンガリーはふとあることに気が付いた。

「あれ…?そう言えば、あいつは?」

あいつ、と言いながらも問いかける相手にドイツを選んだことで分かったのだろう。
顔を顰めるドイツの隣でそれがね!とイタリアが声を上げた。

「プロイセンた湖に落ちて体調崩しちゃったんだって!」

「…そうなの?」

「ああ。何故落ちたか頑として口を割らないがそうらしい。今は家でベッドの上だ」

「大丈夫なんですか?」

ドイツの重い口調にオーストリアは心配げだ。

しかし、大したことはないと言い切るドイツにそれ以上何も言えなかった。

「兄さんの分まで俺が祝う。悪いな、ハンガリー」

「いいのよ。うるさいのがいなくてありがたいくらいだわ」

ウィンクを飛ばせば、ドイツは兄さんも報われないなと苦笑した。




その夜、たまたまドイツの方面に用があったハンガリーは、たまたまドイツの家の近くにいて、たまたまその時持っていた栄養になる野菜や熱冷ましにいい薬草を持っていたので仕方なしにドイツ宅に訪ねてみることにした。

「…偶然て重なるものよね」

自分に言い聞かせるように呟くと、ハンガリーはドイツの家をノックした。

すると、中から現れたのはドイツではなく熱冷ましシートをおでこに貼ったプロイセンだった。

「え…ハンガリー…?」


きょとんとした顔で何度も目をこするプロイセンにハンガリーは内心で動揺した。まさか本人が出てくるとは思っていなかった。

しかし、思ったより赤い肌色と潤んだ瞳からやはり熱はそれなりに高いようだ。

ゲホッと苦しそうに咳をした瞬間、ハンガリーはようやく我にかえった。

「熱出てるってのに何やってんのよアンタは!!」

心配から来る怒りに押されてハンガリーはプロイセンの首根っこを掴むと勝手知ったる昔馴染みの家に上がり込んだのだった。

「は、ハンガリー…?」


プロイセンを部屋のベッドに放り込むと、ハンガリーは持ってきた荷物をがさがさと漁りだす。中から出した薬草をこれまたたまたま持っていた道具ですりおろす。

「ドイツは?」

「熱が下がらないのを心配したみてーでな。医者を連れて来るってさっき出たとこだ。…それより」

はあ、と熱い吐息を苦しそうに吐き出してプロイセンは聞いた。

「なんでお前がここにいるんだ?」

今日は誕生日だろ。自国にいなくていいのか、と。

「簡単よ。たまたまドイツに用があって、たまたま近くに来たから、ちょっと寄っただけよ」

ハンガリーは素知らぬ顔を作り淡々と話す。

すると、熱に浮かされたプロイセンはそうか…夢かこれは…と妙なことを口走り勝手に納得したようだった。正常な判断も出来ないらしいと気付いて、ハンガリーは少しほっとする。

「…なんで湖なんかに落ちたのよ」

「あー落としちまってな」

「落とした?」

「あそこ」

指差した先は机の上。そこには長方形の小さな箱が置いてあった。贈り物用らしい小さなそれはリボンがほつれ、水で箱がふやけた形跡がある。


「これって…」

「……想像通り、お前に渡そうと思ってたプレゼントだ。小鳥に悪戯されて湖に放り投げられた時はめちゃくちゃ慌てちまったぜ」

ケセセ、と笑うプロイセンは本当に夢だと思ってるのだろういつもより素直にするすると話す。

「前に、欲しがってたろ。イギリス野郎ん家での会議帰り。ショーウィンドウにかじりついて高いから我慢するって…お前に似合いそうだったし、それに…」

「それに…?」

続きを促すと、口籠もったプロイセンは少しだけ恥ずかしそうに白状した。

「いつも、俺が何か渡しても、文句つけるだろ?だから、これならちっとは喜んでくれるかなって」

「バカね」

いつもいつも、ちゃんと喜んでる。今だってほら、実は泣きたいくらい嬉しいんだから。

「ほんと、バカよね。それで小鳥に奪われて水に使って熱出すなんて…情けないにもほどがあるわ」

「悪かったな」

「言う言葉が違うわよ?」

プロイセンは不思議そうな顔をした後、あ、と何かを悟った顔をして。


「誕生日おめでとう、ハンガリー」


ハンガリーの望みどおりの言葉を贈った。




その後、煎じた薬を無理やり飲ませて寝かしつけたハンガリーはプロイセンの赤く染まった寝顔を見ながらふ、と微笑んだ。

「…本当はね、調子が出なかったの。うるさいアンタが毎年一番に祝いに来るのに…今年は顔も見せなくて…」

顔にかかった髪を優しく指ですいてやる。

「ちゃんと喜んでたわよ。毎年毎年、見当違いな物を贈ってくるアンタだけど…でも最後には必ずいつもあの言葉を言うでしょう?」


『誕生日おめでとう、ハンガリー』


恥ずかしそうに、照れ臭そうに、少しだけ頬を染めながら。時には顔を逸らしながら送られる言葉は何よりも嬉しいプレゼントだった。

バカね、とハンガリーは思う。
本当に、わざわざここまでやってきて。
どうしてもこの言葉が欲しかった自分の気持ちがバカだなぁと思う。


「このプレゼントは、頂いていくわね」


長方形のひしゃげた箱を手に、ハンガリーは寝ているプロイセンに告げた。


「きっとアンタは慌てるんでしょうね…可哀想だから、お返ししておくわ」


そう言って、ハンガリーはゆっくりとプロイセンに唇を寄せた。





数日後、すっかり復活した様子のプロイセンと、世界会議の場でハンガリーは再会した。

「ようハンガリー!」

「あら、湖落ちて熱出したと評判のおバカさんじゃない。お久しぶりね」

「テメェ!…ははーん、久しぶりに俺様に会えて気恥ずかしいんだな?なるほどなるほど〜」

「想像力豊かにもほどがあるわね」

「んだと?ったく、夢の中ではしおらしかったくせに…」

小さく呟く声を聞き、ハンガリーはほっと胸を撫で下ろす。ちゃんと夢だと思い込んでいるようだ。

「…兄さん、強がりもその辺にしてくれ」

彼の背後からやって来たドイツが久しぶりだな、と声をかけてくる。

「お久しぶり、ドイツ。誕生日会以来かしら」

「ああ」

和やかな会話をしていると、ふとプロイセンの視線が自分の首筋に向いているのに気が付いた。

「ハ、ハンガリー…、そのネックレスって」

「あー!ハンガリーさんそのネックレス使ってくれてるんだ!?」

プロイセンの言葉を遮るように、またも後ろから飛び付いてきたイタリアを受けとめながら、ハンガリーは微笑んだ。

「イタリア君、お久しぶり。うん、もちろん使わせてもらってるわ」

イタリアとドイツからの贈り物は、ピンクゴールドのチェーンに小ぶりのダイヤが光るネックレスだった。

華やかだが上品な形のそれは、いつか自分がイギリスで釘付けになった品だった。

「え…イタリアちゃん達のプレゼント…?」

「うん!そだよ〜。ドイツと確かこれだよね〜って言いながら買ったんだ!」

「皆似たような形だったから探すのに戸惑ったがな」

「あってたみたいで良かったよ〜」

「ええ、間違えなくこれよ。ありがとう、二人とも」

その様子を見て、押し黙るプロイセン。尻目で確認しながら、ハンガリーは彼に向かって問い掛ける。

「どう? 似合うかしら?」

「ま、まあまあなんじゃねーの?」

そっぽを向く苦々しい表情に事情を知っているハンガリーは笑いを堪えてしまう。

「でもプロイセン可哀想だったね〜。誕生日会来れなくて〜」

「うぅ…イタリアちゃんは優しいなぁ。ありがとうよ!でもそうでもなかったぜいい夢見たからな」


「夢?」

ぴくり、とハンガリーが反応する。

「ああ、俺様が惚れてる――じゃなくて、俺様に惚れた女が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた夢でなぁ。最後には唇に熱いキッスを――」

「ほっぺよバカ!」

「……へ?」

あっ、と思うが最後。
叫んでしまったハンガリーは顔をみるみる赤く染めてゆく。

「え…もしかして…あれって…夢じゃなくて…」

「ゆゆゆ、夢に決まってるわよ!」

叫んで、踵を反したハンガリーは全速力で走り去ってしまう。

「あ、おいハンガリー!」

反射のように追いかけるプロイセンを見送りながら、唖然とするドイツの横で何も分かってない様子のイタリアがのほほんと口を開いた。

「ドイツドイツー、あのさー俺一個だけ疑問があるんだけどさー」


「…なんだ?」

「ハンガリーさんにあげたネックレスって、ピンクゴールドのチェーンに縁が星形のダイヤじゃなかったっけ?」

「ああ、確かにそう記憶してるが」

「そっかぁ〜。でも今付けてたネックレス、縁がハート型だったんだよね〜変だねぇ」

「見間違えじゃないのか?」

「かなぁ?」

考えることを放棄したドイツとイタリアが事の核心を知らずついていた頃、当の本人達は追いかけっこに勤しんでいたのだった。


その後、しばらくして熱を出して寝込んだハンガリーにあの時やっぱり口だった気がするとプロイセンは思うが…真相はただ、乙女心の闇の中、なのだった。










* * * * * * * *

久しぶりに書きました。
文章て書かないと忘れますね。精進致します〜。とりあえず、リクエストのギルエリでした。遅いけど姉さんハピバ!

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エリザ姐さんハピバ小説!
ありがとう、そしてありがとう(´;ω;`)
もう、本当かわいい。かわいい。
イタちゃんするどい(笑)
素敵小説をありがとうございました!

エリザ姐さんハピバ―!!
ごめん、わたし描いてない。。





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