もしもの話より

□もしもの話より
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※お付き合い前提黄笠。



今日は珍しく部活が休みだった。といっても笠松は受験生であり、普段は部活に明け暮れているからこそこうした時に挽回しなければいけない。そんなことを考えていると教科書以外にも問題集のつまった鞄が重みを増した気がした。

ふと溜め息がもれる。下駄箱に目を向けるといつもより騒々しく感じ首を傾げた。

「笠松せんぱーい!」

そこには原因の張本人がいた。笠松の顔を見た瞬間まばゆいばかりの笑顔になるのは可愛いと思わないこともない。ないが、うざい。

「何やってんだよ、お前は」

そんなに女子を引きつれて。下駄箱の前に佇む黄瀬のまわりを囲むように女子が集まっていて、それを見るだけで笠松は疲労を感じた。

「つれないなー。先輩を待ってたんスよ。まぁその間にこの子達に囲まれたというか…」

ごにょごにょと言い訳する黄瀬。別にそんなことをする必要もないのだが。そもそも黄瀬は高校生活のかたわらモデルをしている。女子に好まれる甘く整った顔、騒がれない訳がないのだ。

「笠松先輩と一緒に帰りたいっス」

その瞬間えー!と黄瀬を囲む女子からブーイングがあがる。それにすかさず、

「今日は先輩と帰りたいから。ごめんね?」

少し困ったようにやわらかく笑う。すると女子達は静かになる、というか見惚れている。モデルってすげぇなと笠松は感心する。その隙に手を強引に引かれてその場から離脱する。

「ちょっ!俺は帰るなんて言ってねぇ!」

「いいから!」

校門を出て学校から離れるとやっと足を止めた。

「なんなんだよお前は!いい加減手ぇ離せ!」

バッと手を離すと黄瀬は少しだけ悲しそうな顔をして、笠松はバツの悪さを感じたが、それを上塗りするような懐っこい笑顔をむける。

「先輩と帰りたかったんスよ」

「…物好きなヤツ」

こうなっては笠松の負けだった。そもそも黄瀬と帰ること自体は嫌ではないのだ。たわいのない話をするのはそれなりに楽しいし、黄瀬の話は尽きないのでそれに相づちをうつのも嫌じゃない。

ただ、歩いているだけで注目されるのは如何なものか。さっきから視線と黄色い声が痛い。しかし、等の本人はまったく気にしていないようで、気まぐれに手まで振っている。こんなのは日常茶飯事だ。だけど、

隣にいるのが自分でいいのだろうか。

そんな疑問が笠松の頭をよぎる。笠松と黄瀬は所謂お付き合いをしている。黄瀬の想いを受け入れた時から拭えない疑問。

美しい見目に振り向く女たち。
それは自分よりも黄瀬の隣を歩くのにふさわしく見える。

「黄瀬、」

「なんスか?」

「お前は女と付き合おうとか思わないのか?」


黄瀬は目を見開き、そして美しく笑う。


「俺は先輩が好きなんスよ」

「知ってる」


そう即答すれば黄瀬は真面目な顔で考え込む。


「正直考えたことがないわけではないっス。実際あなたと付き合う前は女の子と付き合ってたし」

「そうだよな」

未来ある幸せ。
自分たちでは叶わない幸せ。

「そーっスね、女の子と付き合って、いつか結婚したりして子どもが生まれて」

「あぁ」

「俺の子だからきっとめちゃくちゃ可愛くって、休みの日は一緒に料理したりして。あ!そうそう運動会なんかは張り切っていいところを見せようと頑張っちゃったりして」


話しながらくすくすと楽しそうに笑う。あぁ、容易に想像できるな。と笠松は思う。きっといい父親になるんだろう。きっと幸せになるんだろう。


「でもね」


隣にいるのが自分でないだけだ。


「隣にいるのが笠松先輩じゃないんスよ」


その言葉に笠松は振り返る。そこには悲しそうな顔で微笑む黄瀬がいて。

「もしもの話って、普通現状よりも幸せなものを想像しますよね?それは確かに幸せな未来かもしれない。でも隣にいるのが笠松先輩じゃない、それだけで俺は不幸せっス。」

笠松は美しい顔を歪ませる黄瀬に幸せと少しの優越感を抱く。こんな顔をさせたのは確かに自分なのだと。

「俺はそんなもしもの幻想(みらい)よりも現実(いま)が欲しい。」

笠松は黄金色の髪に触れる。優しく触れるのは苦手だ。だから強引に頭を自分の肩に寄せた。

「悪かった。そんな顔をさせたかったわけじゃない。お前を試したかったわけでも疑ってたわけでもない。」

ただ、不安だっただけで。
でもそれはお互いさまだったのかもしれない。

あたりまえの幸せは手に入らないかもしれない。そんな不幸せを相手に強いること、それが怖かった。でも、それ以上に怖いことがあることを知った。

「黄瀬、お前の隣にいてやるよ。だからお前も俺の側にいろ。」

不安も疑問も拭えるわけじゃない。きっと二人でいるかぎり一生つきまとうだろう。だったら、それごと幸せになるしかない。腹を据えなきゃいけねぇな、と笠松は苦笑する。

「ほら、帰るぞ。」


笠松は乱暴に髪を掻き回し、黄瀬に手を差し出した。顔を上げた黄瀬はなんとも情けない顔をしていて、笠松は思わず少し笑ってしまった。手をとって二人は歩き出した。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
初の黄笠小説でした。
予想以上に面倒くさいふたりに…
もしもの話で幸せになるのは決して黄瀬だけじゃなく笠松先輩も同じ。本人は失念してそうですが(笑)もしもの幸せよりも、相手との未来がほしい黄瀬のお話でした。

慣れないCPで読みにくかったかと思いますが、お付き合いありがとうございました(*´ω`*)







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