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□さくらさくら。
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桜は満開一歩先。やわらかな風にさえも花びらが舞い降る。


今日の風は少々強めで、見事なまでの花吹雪。


そのせいで、この桜並木の地面のほうも、一面薄桃色に染まっている。





市中見廻り別ルート〜、なんて、心の中で同行していたマヨネーズ…もとい、マヨラ土方に告げて、ここに来た。



特に桜が見たかったワケではないけれど、なんとなく、気付いたらここに来ていた。




足元はどこまでもあま〜いピンク色。


まるでいちご牛乳を流したみたいだ。


なんて思ったら、同時に、いちご牛乳をこよなく愛するあの人のコトを思い出した。


いや、旦那のコトを考えてるからいちご牛乳に見えたのか?


卵が先か鶏が先かのような、微妙に不毛な思考ループに陥りながら、脈絡あるようでなさそうな考えが浮かんだ。



…もしも、いちご牛乳でいっぱいに満たしたプールへあの人を突き落としてみたら、怒るだろうか?それとも喜ぶのだろうか?


うん、今度試してみよう。


なんてファンシーなんだかえげつないんだか分からないコトを考えていたら、思考の中の彼の人の姿が前方にあった。



想いを馳せていた相手に、偶然会えるというのはなんだか嬉しい。しかも、大好きな人なら尚更だ。



花吹雪の中、桜の幹に背を預け、ぼんやり宙に視線をさまよわせる姿は、どことなく儚げで、すぐにそばにいってしがみつきたい衝動に駆られた。



ゆっくり近づきながら、その衝動に素直に行動しよっかな、と思った瞬間踏みとどまる。



桜を見ているその表情がふと緩み、今までに見たことの無い、…笑ってるような、そうでないような、とてもとても柔らかなものになったので、思わず見惚れてしまったからだ。





しばらく、それを目に焼き付けた後、徐に、先程の衝動をよみがえらせ、駆け寄って思いっきり抱きついた。





『どーしたんだい?沖田くん。』




リアクションはあまりにもあっさりで



『気付いてたんですかィ?』



『そりゃあ、あ〜んなに情熱的に見られてたら気付くだろうよ。てゆか、なんですか、俺に見惚れちゃってましたかぁ?』



『…へぇ、見惚れてました。』



今度は少し苦い表情で



『そこは少し否定しとけや。』



『今まで見たこと無い顔でした。すごく、すごくキレイで見惚れてやした。』



こんなにいつも『旦那鑑賞』してるのに、まだ俺の知らない顔してるなんて、ちょっと悔しい。

何を想ってた?誰を想ってた?

俺のコト思い出すとき、そんなキレイな表情してくれますか?


旦那にしがみついたまま、そんなコト思いながら、じっとその眼を見つめる。


そんな俺を見返して、ちょっと困った顔をして、諦めたようにため息をついた。



『昔っからさ、一人で桜を見てると言われんだよ。顔が違うって。…自分じゃ分かんねーんだけどな。』


桜を見上げて、またあの顔をみせる。


『ヅ…ガキの頃からのツレは、桜は象徴なんじゃないかって言うんだ。』



『象徴、ですかィ?』



『ああ。昔世話になってた塾でさ、桜の花びらが舞い込む中でよく居眠りしてたんだ。』



『それは、なんとも長閑な光景ですねぇ。』



『だろ。…一番緊張感が無くて、一番平和で、一番幸せで、一番…子どもらしく子どもでいられた頃の象徴なんだろうってさ。』



そう言って、俺を見て、へにゃっと笑って続ける。



『だからさ、そん時の緊張感のねー緩んだ顔になってるんだろうからさ………キレイとか言うなよ。』






…ああ、そっか、旦那が想うお人は、旦那を、子どもらしく子どもでいさせてくれた人なんだ。


それじゃあ、俺なんかがかなう人じゃない…てゆか、勝負を挑むこと自体がおこがましいってハナシじゃねーか。


だったら…



『またまたご謙遜を。だいたいにして、俺が知らないコトで、俺の知らないコトで、あんなキレイな顔するなんてズルイですぜ、旦那。』





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