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□きわまれり。
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万事屋にて。
相も変わらず、依頼もないしお金もないので、とりあえずジャンプを読む。
ジャンプを読んでいるのだが…
『沖田く〜ん、なんか視線が痛いんですけど〜。つーかなんでいんの?なにしてんの?なんでこっち見てんの〜!?』
そう、俺はジャンプを読んでいるのに、先ほど突然やってきた沖田くんは、ソファーの向かい側に座って俺を見ている。
かな〜り気になる。
さっさと追い出してしまえばいいハナシなのだが…手土産に高級和菓子をいただいてしまった為、無下には出来ないのである。
そんなこちらの状況を知っているからだろうか
『旦那を見にきたんで、旦那を見てるんでさぁ。』
なんて、余裕でおちょくってきやがるんだ。
ああ…面倒くせえ…、でも、和菓子はうまかった!大丈夫、あの味を思い出せば耐えられる。頑張れ、俺!!
『俺なんか見ててもさ〜、特に面白くもないからさ、ジャンプでも読む?』
見つめられる辛さに耐えかね、読んでいたジャンプを差し出してみる。
『いや、おかまいなく。お気になさらず、読んでてくだせぇ。』
お気になさらずって、そりゃあ無理なハナシだぜ。真正面から見られてたら気になるっつーの!!
『うん、無理だから。気になるから。ジャンプに集中できないから。』
『そうですかィ。まあ、それはどうでも良いとして…』
…どうでもよくねーし、さっさと帰れや…心のなかでつぶやく。
そんな俺の心の声がそのまま顔にでているであろうにも関わらず、まったくお構いなしに話を始めた。
『これは、猫好きの人間によくある話らしいんですが…』
真剣な表情で、大きなガラス玉のような眼をまっすぐ此方に向けて言う。
『自分の飼い猫を見ていると、好きすぎてたまらなくて、思わず「好きッッッ!」と言いながら抱きしめてしまうらしいんでさぁ。』
『…………………?
へ、へ〜〜〜、そぉなんだ〜………。……で?それが何??』
全く意図が分からん。別に俺も沖田くんも猫飼ってねーし、共感もできねーし、そんな真面目な顔して言われる意味が分からねーーー!
『その話を聞いたとき、驚いたコトに、その感情を理解できたんでさぁ…』
そう言って、じ〜〜〜っと俺を見つめてきたかと思いきや…
『好きッッッ!!!』
そう言って、俺に飛びついてきた。
『えーーーッッッ!!!なに?なに?なに?なんで?』
パニックだ、なんでコイツはこんなに唐突なんだ。意味が分からん!!
ひとしきり、しがみついた後、飛びついてきたのと同じ突然さで離れて、ソファーに座りなおした。
『なんか、感極まりました。そんなカンジでさぁ。』
『いやいやいや、そんなカンジでさぁ。とか言われても…。なんなの?』
『だから、猫好きな人間の気持ちでさぁ。』
…………………
…………………
…………………
…えええええええ〜
その論法はヨロシクない。ヨロシクないよ。
いったい俺にどうしろと?
目は口ほどにものを言うとはよく言ったもので、声に出せない俺の心の葛藤は、今度はキレイに読み取ってもらえたらしい。
『あ、別にどうして欲しいってワケでもなくて、ただ旦那を見てるとそーゆー気持ちになるってだけの話なんで、お気になさらないでくだせぇ。』
そう言うと、未だ言葉が出せないままの俺を見て、そっと笑って、『じゃあ、また。』と告げ、帰っていった。
玄関の閉まる音を聞いて、ため息と共に全身の力が抜けた。
ぐったりソファーに寄りかかって考える。
なんなんだアレは。
そして俺もなんなんだ。
パニクってないで、リアクションしろよ俺。
冗談で返せないほど、切羽詰まるなよ俺。
あああああ…なんかダメダメだ、俺。
もう、こんなコト考えてる時点で終わってる感があるが、いいや。気にしなくていいって言われたし、気にするのは止めよう。うん。
気にしない気にしない。
そうだ、ジャンプを読もう。
………はぁ……。
瞬間的に拒絶しない時点で、答えは見えてるだろうと言われそうだけど、とりあえずしばらくは知らないフリで…。
もう少し、見ないフリで…。
脳裏で、此方を見るガラス玉の眼を、無理やり閉じさせた。
end。