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□目を閉じてるとき。
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いつものごとく、総悟に逃げられ、ひとりで市中見廻りを続けていた。
なかなかに抑えがたい苛立ちを抱えつつ歩いていると、進行方向に公園が見えた。
とりあえず、一服しようと思い立ち、公園内の喫煙所を探していたら…
ヤツがいた。
ヤツ…目障りこの上ない、社会の最下層に位置する銀色くるくるアタマの万事屋である。
そんなヤツこと万事屋は、公共の物であるベンチに、長々と寝そべり、悠々昼寝の真っ最中であるらしい。
不本意ながら、何かと似ていると言われる所以は、こういった純然たる、偶然の遭遇にあるのだろう。
己の意志と思いつきで行く先を決めているのにも関わらず、この遭遇率は如何ともし難い。
存在自体にムカつくのに、避けようとしても遭ってしまうという現実が、尚更にムカつくのである。
まあ、それもお互い様なので、顔を合わせたら全力でその腹立たしさをぶつけ合うコトになるのである。
しかしながら、そんなヤツは現在昼寝中であるので、恙無く、速やかに、この障害を通り抜けようじゃないか…
そのように考えながら、問題のベンチを素知らぬ顔で通り抜けようとした。
…通り抜けようとした。
通り抜けようとした、の、だが…
通り過ぎながら、チラリと見たその顔が、なんだかいつもと違うように見えて、思わず足を止めてしまった。
この特徴的な片袖を抜いた着流しに、間違えようの無い銀髪。尚且つ歪んだ根性を体現したような天然パーマ。
間違いない。あの万事屋だ。
じゃあ、この違和感は一体何なんだ?
感じた違和感の正体が気になって、見ないコトにして通り抜けるハズだったのに、結局捕まってしまった…
こうなったら徹底解明してやる。
そう決心し、おもむろに寝ている万事屋に近づいた。
そして、そっと顔を覗き込む。
…………………………?
あれ?こいつ、こんな顔だったか?
なんか、見れば見るほどわからなくなってきた。
つーか、実は別人?
いや、そんなハズねーだろ。
つーか、………なんか……なんつーか…
色素の薄い肌の色、細い顎、通った鼻筋、無機質なうすい唇、閉じられた瞼を飾る銀色の睫…まるで作り物のような整った顔。
こんなに、キレイな顔だったか?
脳内にある、ヤツの顔と、必死に照らし合わせてみる。
どれもこれも、人を馬鹿にしくさった、死んだ魚の目をしたムカつく顔ばかりしかでてきやしねー。
………ああ、そっか。
目だ。目の印象が強いから、それが閉じられて初めて、顔のカタチが見えたんだ。
…ホントにキレイな顔してやがんな…
眼の力と表情が消えて、人形のように整ったカタチをみせる顔に、ほんとは人形なのか?と湧いた疑問を払拭すべく、その頬に触れようとした瞬間
パンッッッ!!!
軽い破裂音と共に、ものすごい速さの何かが目の前を通り過ぎた。
『銀ちゃんから離れるアル!この強制猥褻汚職警官が!!次はアタマを撃ち抜くネ!!!』
『おわぁぁぁ!違う、違うぞ!!つーか撃ってんじゃねーよ!アブねーだろーが!!』
『オマエ、今銀ちゃんに何しよーとしたネ。』
言われて、ハッと我にかえった。え?俺ぁ今何をしようとしてたんだ?この手は何だ?何するつもりだったんだ???
『やっぱり銀ちゃんに不埒なコトするつもりだったアルネ。………死ね。』
傘の銃口を向けられ、さらに焦る。
『おい、ホントに待て。何にもしてねーし、何にもしねーから!つーかオメーこそそんな物騒なもん持って何してんだよ!!』
『私?害虫駆除に決まってるアル。銀ちゃんは自覚が足りないアル。モテない天パなんて自分で思ってるだけネ。だからオメーみてーな害虫を私が駆除するアル。』
『ああ、なるほど…』
こんなに普段とのギャップを見せつけられたら、そりゃフラフラいっちまうな〜、なんて納得していたら
『他人事みたいな顔してんじゃねーぞ、害虫。さっさと行けや。』
なんで標準語?
まあ、自分にも少し後ろめたさがあったので、ここは大人しく立ち去ろう。
そう思い、少し名残惜しさを感じながらもそこから離れ、歩き出した。
背後から、チャイナ娘の声がした。
『次があると思うなよ。』
…怖ぇ…なんか怖ぇ…
万事屋なんぞを『キレイだ』なんて思ったコトや、あんな小娘に恐怖心を抱いたコトとか、そっと心の奥底に封印しよう。
俺は何も見てない、聞いてない、感じてない…
万事屋…、やっぱり何かと目障りだ、と、改めて感じた俺だった。
end。