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□ぎゅっとする。
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いつもの光景、いつものコト。


酢昆布と、いちご牛乳がテーブルにある。


いつもの光景。


万事屋に依頼が無い。


いつものコト。


私と銀ちゃん、ソファーで日がな一日ゴロゴロお昼寝。


いつもの光景。





…寝てたハズの銀ちゃんが、突然、跳ね上がるように上半身を起こす。


いつも…じゃないけどたまにあるコト。


何かを確認するみたいに、辺りを見回す。

それで、ホッと息をつく。



銀ちゃん、夢をみてる。

アタマが作った夢じゃなくて、過去にホントにあったコトの夢ネ。

だから、きっと、夢とホントが分からなくなってるヨ。



そのときの銀ちゃん、私の知らない顔してる。

私、それがとても嫌ネ。





だから、はやく私のトコに帰ってきてって、銀ちゃんの首もとに、ぎゅってするアル。


そうすると、銀ちゃん、いつもちょっとびっくりした顔してから、何もなかった顔になって…



『どーした?』



って、聞いてくれる。だから、どこにも行かないでヨって言う。

そしたら

『どこにも行かねーよ。てゆかなあ、ここ俺んちだしなぁ…』



私の頭に手を置いて、続けて言う。



『どっちかってーと、いつか、どこかに巣立ってくのは、おめーらの方だろ。』



って、フクザツな顔して笑う。


違う。違うヨ。そうじゃないの。わかってるヨ、ずっと一緒なんて無いって。

でも、違うの。私も、新八も、銀ちゃんが根っこなの。


だから、どんなに離れてたって、私の中から銀ちゃんが居なくなるコトなんて無いアル。


でも、銀ちゃんにとっての私達は、枝なの。

もし、銀ちゃんが枝を切って、根っこに帰ったら、銀ちゃんの中の私は居なくなっちゃうネ。


そんなの嫌。すごく嫌。だから、そんなトコロに行かないでって、ぎゅってするアル。

私を、銀ちゃんに、根付かせるように、ぎゅって、ぎゅってする。



『てゆか、お〜い、神楽ちゃ〜ん。銀さんちょっと苦しいんですけどぉ。』



ぎゅ〜〜〜。銀ちゃん。銀ちゃん。銀ちゃん。



『ぐぇ。か、神楽ちゃん。そろそろ銀さん、窒息しそうなんですけどぉ〜。』



あ、なんか、闘争心に火がついたアル。食い込め私!!



『おいコラ、いい加減にしろや!!本気で窒息死するぞ!!』



『嫌アル。私、食い込むアル。』



『ああ!?なんだそりゃ?意味わかんねーぞ!!神妙な顔してると思って遠慮した銀さんの気持ち台無しかコラ!!』



『銀ちゃん、大好き。』






『………なんだそりゃ。』



ぱっと腕を放して銀ちゃんの顔を見た。

いつもの、きらめいてない、死んだ魚の眼。

でも、ふにゃっと歪んだ口の端。



ちょっとだけ。ちょっとだけ、銀ちゃんに根付いてる私の枝が見えた気がした。



で、だめ押しに、もっかいぎゅってした。



あまいあまい、いちご牛乳の匂いがする銀ちゃん。私、ずっと覚えてるネ。

銀ちゃんも、ぎゅっとする私の匂い、覚えててくれるといいな。




ん?もしかして、私の匂いって、酢昆布?

…あんまりロマンチックじゃないアル。






…ま、いっか。










end。

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