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□いちご大福。
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今日も今日とて、江戸の平和と人々の安全を守る為、ニコチンマヨラこと、くたばれ土方コノヤローをお供にタノシイタノシイ市中見廻り真っ最中。
全力で、職務に勤しみつつ、良い昼寝場所を探してぐるりと周囲を見渡してみると…
ごじんまりとした和菓子屋に『いちご大福』ののぼりが視界に入った。
瞬間、頭をよぎったのは、何かと気になる銀の色した甘味をこよなく愛する彼の人。
愛してやまない甘味を持っていったら、死んだ魚のような目をしたあの人はどんな顔を見せてくれるかな?
なんてコトを考えながら、ふと気付けば、手にはお買い上げ済みのいちご大福。
うん、買っちゃったし、想像じゃなく、甘味を受け取った瞬間の顔を見に行こう。
と決めた瞬間、ぐわしっと肩を掴まれた。
『そぉぉぉ〜〜〜ごぉぉぉ〜〜〜!!!』
あ、すっかり忘れてた、ニコチンマヨラ。
『なぁ〜〜〜に堂々とサボってやがんだコラ!!』
『なんですかィ土方さん、俺がいなくてそんなに寂しかったんですかィ?気持ち悪ィ。』
『ああ!?寂しいワケあるか!そうじゃなくて…』
『そうですかィ、だったら良かった。じゃあ俺はちょっと用事が出来たんで、行ってきまさァ。』
『て、オイ待て………って、もぉいねぇし…………。』
言い終わらないうちに、肩を掴んでいたはずの手が、虚しく落ちた。
……………………………………………
そんなこんなで、万事屋の前。
居住まい正してインターホンを押す。
『は〜い。』
聞こえた返事とともに開く引き戸の扉。
瞬間漂う甘い匂い。
『あれ?沖田さん?』
白い粉にまみれたエプロン姿で、万事屋従業員の眼鏡が姿を見せた。
『何か、ご用ですか?』
と聞かれ、来訪の旨を伝えようとすると…
『何しに来たネ、汚職警官。』
奥から出てきたやっぱり粉まみれエプロン姿のチャイナ娘。
とりあえず、売り言葉は買う主義なので、
『テメーこそ、不審な白い粉にまみれて何してやがんでィ。イケナイ薬品に手ェ出してんのかァ?』
『そんな腹の足しにもならない粉なんかに興味無いアル。これはもっとステキな粉ネ。汚職警官なんかには関係無いから速やかに帰れや。』
『あのっっっ、この粉はですねっ!!』
どこまでも続きそうなやり取りを、見かねた眼鏡が会話に入ってきた。
『お客さんに、いちごをたくさん頂いたんです。そしたら銀さんが、「売ってるいちご大福なんて高くて買えないから作る」とか言い出したんですよ。』
なに!?まさかのバッティングだ。あの甘い匂いは餡の匂いか…
『その辺に売ってるのなんかより、銀ちゃんが作ったほうが何倍も美味しいアル!』
う〜〜〜ん………買ってきた包みを、どうしようかと思案する…と、
『お〜い、ギャーギャーうるせぇぞ〜…って、あれ?沖田くん?どしたの?』
もうここまできたら、いっそのコト何もなかったコトにして帰ろかな〜、と思ったら、
『お?沖田くん、その手に持ってる包みは、もしかして甘味?』
あ〜〜〜…、なんて目ざといんだろうか…、仕方ない、潔くいくしかないな…。
『ええ、そうなんですがね、俺としたことが、いちご大福、被っちまったようなんで、出直してきまさァ。』
『おいおいおい、なんで?うちに持ってきてくれたんでしょ?だったら置いてけや〜』
『でも、その辺で売ってるのなんかより、旦那お手製のほうが美味いそうじゃないですかィ?』
『わかってないなぁ、沖田くん。』
得意気な呆れ顔で旦那は続ける
『確かに、俺お手製の甘味は格別だ、しか〜し、頂きモノの甘味は別格なのだよ!!わかるかね、このニュアンス?』
『いや、分かりやせん。』
と言うと、ちょっと不服そうな顔で
『あ、そ。でもとにかくそれよこせ。』
素直に包みを差し出す。
受け取った旦那は、満足そうに口端を上げて
『お礼に、銀さん特製いちご大福を出すから、茶でも飲んでけよ。』
『そうですね、今、お茶いれますから。』
『…銀ちゃんが喜んでるから、上がるのを許可してやるアル。』
……………なんか、なんだろう、なんとも言えないこのカンジ。
こそばゆい?面はゆい?…あったかい?
なんだか、いてもたってもいられなくて、挨拶もそこそこに逃げ出した。
軽い気持ちで、いつもと違う顔を見ようと思っただけなのに、正体不明な衝撃を受けてしまった。
さすが旦那、油断ならねぇ。
近々リベンジ決定でィ!!
…たぶん、end。