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□ひらりはらり。
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ひらり、はらりと雪が舞う。
ふらりと通った川べりに、たたずむ人が見えた。
薄く積もった雪の色に、溶け込みそうな銀色の人。
この寒空に傘も持たずにある様は、普段のふてぶてしさとはかけ離れた静けさだ。
ただただ、しずかに降る雪を見て、一体何を想っているのだろうか。
いつも、いつでも、飄々としていて、何を考えているかなんて悟らせてくれないくせに、不意にこんなふうに、何かを考えているであろう姿を見せられる。
遠く遠く、思いを馳せるその人は、目の前にいるのにひどく遠い。
………………………………
そんなコトを考えながら、雪の中に立ち尽くす銀さんに近づいてみる。
よほど深く想いの中に漂っていたのか、珍しく、僕に気付く様子もなく、すぐそばに立ったところでようやく此方を見た。
さらに珍しく、少し驚いた表情を見せた。
とにかく素を見せてくれない人なので、先程まで感じていた疎外感みたいなものも忘れ、ちょっとだけ嬉しいと感じている自分がおかしい。
とりあえず、僕の目の前まで帰ってきてくれた銀さんに話し掛ける。
『こんなとこで何してるんですか?風邪ひきますよ。』
『あ〜…、雪がな、イチゴシロップかけて食ったらうまそうだな〜、と思ってさぁ。うっかりうっとりしちまったよ。』
『…この寒さでよくかき氷食べようとかゆー発想でますね。やっぱりバカですか?』
『なんだと〜、糖分王ナメんなよコノヤロー。常に糖分のコト考えてるっつーの!』
予想通り、核心をはぐらかされたやり取りをして、すっかりいつも通りになった銀さんに、少しだけ切なさを覚えた。
僕の目の前に銀さんはいたのに、銀さんの目の前に僕はいなかったコトが悲しい。
僕と、僕たちといる今が、雪の向こうに霞んでしまうコトが、ちょっとだけ悔しい。
なんて、思った。
でも、だから、やっぱり、入れない過去になんて負けないもんね!
僕たちといる今が、いつだって一番だって言わせてみせる!
なんて、変に燃えてみたり…
そんな僕の決意を知ってか知らずか、
『よし、新八ィ、イチゴシロップ買ってこ〜い!!』
『はあああ?なんで僕が?』
『社長の要求に応えるのが社員の務めだぞ〜。うちで待ってるから、速やかに行ってくるよーに!』
『ううううう…わかりましたよ、行けばいいんでしょ、行けば!』
『は〜い、頼んだよ〜♪』
なんて言いながら、帰っていく後ろ姿。
なんだかな〜、と思いながらイチゴシロップを買いに走る僕。
ひらりはらりと舞う雪に、消えそうに思った銀色を、目の前まで戻せたコトで良しとしよう、うん。
なんて、思った。
end