little story 【林檎U】

□ジュープ・ミー
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「とりっく おぁ とりーとー!」

「あら、英語もずいぶんと上手になったのね。じゃ、イタズラされたら困るからお菓子をあげましょうね♪」

手に持ったカゴにカラフルなキャンディやチョコレートを入れてくれたルッスーリアがぽんぽんと頭を撫でてくれる。お菓子をもらえて喜ぶべきところかもしれないが、目玉の部分をくり抜いた白布を被りゴーストに扮したフランは差し出していた両手をだらりと下げてこうべを垂れた

「あーぁ」

「あらン、どうしたの?せっかくのハロウィンなのに元気のないゴーストなのね」

「…だってー」

ベルが急な任務で出掛けてしまった。ハロウィン当日はふたりで仮装してスクアーロやレヴィにイタズラしてやろうと密かに計画していたのだ

「あぁ、ベルちゃんね。そんな遠くまで行ってないから夕食までには帰ってくるわよ。…そうそう、ハロウィンディナーのドルチェはかぼちゃのプリンとかぼちゃのタルトとどっちがイイかしら」

「りょうほう」

はいはい、と笑ったルッスーリアが腕まくりをしながら忙しそうにキッチンへと消えていった。その姿を見送ってから暗い廊下をトボトボと歩き出す。スクアーロはXANXUSのお供で外出してしまったし、レヴィもベルと一緒に任務に出てしまった。今この本部に残っているのは自分とルッスーリアと数十名の隊員たちだけで、これでは結局イタズラのしようもない



ベルが帰ってくるまでどうしよう、とりあえずもらったお菓子を食べながら絵本でも読んでいようか。でもお菓子を食べ過ぎるとルッスーリアが腕を振るっているハロウィンディナーが食べられなくなってしまうからほどほどにしなくちゃ、などととりとめのないことを考えつつゴーストの裾(?)をズルズルと引きずってベルの部屋の近くまで戻ってきた時だった

「 Dolcetto o scherzetto いや、Trick or Treat か」

どこからともなく声がして辺りを見回す。白布を被っているせいか視界が狭く、頭だけじゃなく身体ごとぐるぐると回って周囲を窺うといきなり目の前にふわりと何かが舞い降りた

「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぜ?しぇしぇしぇ」

「べるっ!!」

ルッスーリアは夕食までには帰ると言っていたけれど予定が早まったのかもしれない。嬉しさのあまりゴーストの仮装のまま飛びついて見上げると白い歯を見せてニイッと笑う顔がそこにあった

「べる!にんむおわったの?はやかったね」

「あ?あぁ…」

歯切れの悪い返事がちょっと気になったがともかく手を引いて部屋へ入る

「おかし、ほしいの?オカマがいっぱいくれたからはんぶんこしよっかー」

カゴの中身をテーブルの上にぶちまけてよいしょとソファによじ登る。頭から被っていた布が邪魔で外そうとしたけれど、よく見るとベルもフリルのついた白いブラウスを着て細身のパンツをインしたショートブーツを履いている。そして襟にふかふかのファーがついた赤いマントを羽織っているのできっとそれがハロウィンの仮装なんだと思うと自分もこのままがいいんじゃないかと思った

「ねぇ、べるのはなんのかそう?もしかしておうじさま?」

「しぇしぇしぇ、まァな。だってオレが正統王子≠セし」

「せーとーおーじ?」

意味が解らず鸚鵡返して首を捻る。そして金色の包み紙のチョコレートをはい≠ニひとつ手渡して自分も…と手に取ったけれど口の部分がくり抜かれていないのでこのままでは食べられないことに気付いた

「どうしよう、べる。たべられないっ」

バタバタと手足を振り回して訴えるが包みをむいたチョコレートをぽーんと空中に放り、それを口で直接受け止めようと待ち構えているベルはフランの方を見向きもしない

「べるっ……、わっ!」

暴れたせいかよそ見をしたせいかフランの身体はバランスを崩してソファから転げ落ちてしまった

「ぃったー」

「あン?ナニやってんの、おまえ」

やっとフランの様子に気付いたベルが白い布の塊と化したフランに手を伸ばしかけたその時――


―――シュッ!


「そいつから離れろ。でなきゃ次はサボテンだぜ」

指間にキラリと光るオリジナルナイフを挟んだベルがドアを開け放したままこちらを睨んでいた

「こっちこい、フランッ!」

「え?べるっ!?」

状況が把握出来ずにわたわたとするフランがドアに向かって走り出そうとした時、ゴーストの裾を踏んでしまいゴロゴロと床を転がる。その拍子に被っていた白布が外れて上手く抜け出せたので一目散に駆けだした

「べるっ!」

どん、と勢いよく体当たりしてベルの太腿にしがみつく。でも本当に本物のベルなのか不安になって見上げるといつものようにぐりぐりと頭を撫でてくれたのでホッと安心して頬をすり寄せた

「なァんだ、ニセモノのお出ましか」

「うるせェ。ニセモノはテメェの方だろ」

宙を切り裂くナイフがニセモノと呼ばれたベルの足元に突き刺さる。しかしニセモノの方はそれに動じることもなくホールドアップの体勢でふわりと宙に浮いた

「べる!あのひと、おそらにういてるっ。あれ?でもなんでべるがふたりいるの?」


こっちが本物のベルであっちが偽物のベル?


「あ!せーとーおーじ?」

「ピンポ〜ン♪」

「ちげぇ!アイツはただの亡霊だっつの。テメェ、なんでこんなとこにいやがる。土に埋めたハズだぜ」

「しぇしぇしぇ。さァて、なんでかなァ。ま、今日はゴーストがうろついてもいい日かなーって、ね」

「え?あのひと、オ…オバ……オバケッ!?」

あわあわと震える指先で宙に浮かんだ身体を指差す。まさかそんな、ハロウィンだからって本物のオバケが現れるなんて。しかもベルとそっくりだなんて一体何がどうなっているのだろう

「オバケなんて失礼じゃね?オレはその出来損ないの弟ちゃんの兄貴、ラジエル様だ」

「おにぃ…ちゃん?」

きょとんと首を傾げると兄と名乗ったラジエルがニイッと白い歯を見せて笑う。なるほど兄弟だからここまでそっくりなのかと納得出来たが、その笑い方は大好きなベルの笑顔とはどこか違っていた。さっきは分からなかったけれど今はもうどちらが大好きなベルかハッキリ分かる

「あんなヤツ相手にすんな、フラン」

「あ〜らら、冷たいねぇ。ベルがご執心のガキんちょがいるって風のウワサで聞いたんでお兄サマ直々に会いに来たってのに、まさかこーんな青リンゴちゃんとはねぇ。しぇしぇしぇ」

「あ、あおくないもんっ!」

オバケと聞いて青ざめたのをからかわれたらしい。べーっと舌を出して抗議するのとベルのナイフが閃いたのはほぼ同時だった

「コイツにちょっかい出したら承知しねぇぞ」

「さァて、どうしよっかなーっと。出すなって言われると出したくなる性分なんでね。せいぜいしっかり子守するこったな、ベル。チャオ、リンゴちゃん。まったね〜♪しぇしぇしぇ」

再びベルのナイフが宙を裂いたが一瞬のうちに姿を消したラジエルに命中することなく向かいの壁に突き刺さった

「ったく。何しに来やがったンだ、クソ兄貴」

苦々しく舌打ちしたベルが吐き捨てるように言うので思わずフランが身を竦める。ベルの言う通りラジエルが何をしに来たのかは分からないけれど、もし自分がベルとラジエルを区別出来ていればよかったのかもしれない。そうしたらベルもこんなに怒らなかっただろう。大好きなベルを見間違えるなんて恥ずかしくて悔しくて情けない。しがみついたままだった身体をそっと離しておずおずと見上げる

「べる…ごめんね」

「あ?なンでおまえが謝るんだよ」

「だって…」

「おまえがオレとジルを見間違えても仕方ねぇよ。双子だからな」

「ふたご?」

「だけど今度からは気を付けろよ。アイツが来ても相手にすんな」

「うん、だいじょうぶ。もうぜったいまちがえないよ!」

もう一度ぼすんと抱きついてぐりぐりと頬を擦りつける。もう絶対間違えたりしない。だって世界中でたったひとりの大好きなひとだから

「さーて、そろそろメシの時間だろ。今夜はご馳走のはずだぜ?」

「うん!あのね、しょくごのドルチェはプリンとタルトだよ。ミー、どっちもたのんだの」

「うっし、上出来♪んじゃ、その前にいっちょレヴィでもからかって遊ぶか」

「うん!ハロウィンだからね」

「そ。アイツがお菓子なんて気の利いたモン用意してるはずねーからイタズラ決定、ってな♪しししっ」

「けってい、けっていー!!」

それからXANXUSとスクアーロが帰還し、ルッスーリアの豪勢なハロウィンディナーが出来上がるまでの間、レヴィはベルとフランの標的となって虚しい叫び声を上げるはめになった



2014/10/28

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