little story 【林檎U】

□グルーム・ミー
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『…セ……イ、――セン…パ……イ』


   だぁれ?だれの声?だれを呼んでいるの?


『センパイ……ベルセンパイ――…』


   べる?どうしてべるを呼ぶの?


『この闘いが終わったら…ミーは――消え……』


   ミーって、この声はミーなの?消えるってなに?闘いって、任務のこと?


『センパイ…お願い……忘れないで―――』


   あ…この声は前にも聞いたことがあるよ。えぇっと…いつだっけ……



『さよなら……ベルセンパイ――…』



   さよなら=Hやだよ、さよならなんてヤダっ!どうしてそんなこと言うの?ミーはべるとずっと一緒にいるって決めたんだもん。絶対、絶対さよなら≠ネんていやだっ!






「―― やだっ、…やだったらヤダっ!…べる……べるっ!!」

「フラン!?どした?目ぇ覚ませ」

宙に伸ばした手を掴まれハッとして目を開く。はぁはぁと荒い息を吐くフランの頬にもう一方の手を当てたベルが心配そうに見下ろしていた

「あ…あれ?」

きょろりと視線を巡らせるとそこはいつものベルの寝室で、大きなベッドの上の大きな天蓋が窓から差し込む月明かりを優しく受け止めていた

「どした?怖ぇ夢でも見たか?」

「…ゆめ?」

きゅっと手を握られてぱしぱしと目を瞬かせる。額に貼り付いた髪を指で払ってくれるのをぼぅっと見つめた

「すっげぇ汗かいてんな、びっしょりじゃねぇか。とりあえず着替えろ。風邪ひいちまう」

引っ張り起こされて肌掛けがめくれると今度は身体がすぅっと冷える。そう言われて初めて首の回りや頭皮の不快感に気付いた。背中も濡れたシャツが張り付いていて気持ちが悪い

「…くしゅんっ」

思わずくしゃみが出てズズッと洟を啜るとベルが慌てて肌掛けを身体に巻き付けてくれた

「このままじゃマズイな…。風呂入るか?オレもシャワー浴びようと思ってたから、ちっと待ってろ」

くしゃくしゃっと頭を撫でてベッドから下りるベルは夕方出掛けていった真っ黒な隊服のままだ。帰りは日付が変わってからになると言われていたから先にひとりでベッドに入っていてあんな夢を見たらしい

「べる、にんむは?」

「しゅーりょ♪帰ってきたらおまえがうなされてっからスゲェ焦った」

ニイッと笑って寝室を出て行こうとするベルの後ろ姿にいいようのない不安感を覚え、慌てて呼び止める

「まって、べるっ!」

転がるようにベッドから飛び降りて腰に抱きついた。夢の中で聞こえた消える∞さよなら≠フ言葉がベルと離れることを怖がらせるのかもしれない

「なぁんだ?風呂くんでくるだけだろーが」

「ミーもいっしょにいくっ」

ぎゅっとしがみつくフランの頭をぽんぽんと叩き腕を掴んで軽々と抱き上げてくれる。フランはベルの首をがっしりとホールドしてその肩に顔を埋めた。ほんの僅かな硝煙と錆びた鉄のような匂いがして、今度は死≠ヨの恐怖がひたひたと忍び寄る

「なンだよ。そんな怖ぇ夢だったのか?」

バスルームまで運ばれてもベルの腕から降りるのが嫌でしがみついたままコクコクと頷いた。ベルはそんなフランを鬱陶しがることもなく片手でコックを捻り猫足のバスタブに湯を溜める。ほわほわと柔らかな白い湯気がバスルームの温度を上げてくれる

「ホラ、このまんまじゃ風呂入れねぇぞ」

促されてようやく床に降りたがベルの隊服の裾をきゅっと握ったまま俯いた

手を離したら消えてしまうかも知れない。うぅん、消えるのはミーだとあの声≠ヘ言った。でも、どちらにせよベルと離ればなれなってしまうのだろうか

「…やだ」

「あ?風呂、やなのか?」

ふるふると首を振る。何だか分からない漠然とした不安が小さな胸を押し潰すのだ

「ほぃ、バンザイしろ」

言われるまま服を脱がされ、手を引かれて湯が半分ほど溜まったバスタブに抱っこで入れてもらう。「ちっと待ってろ」と言い置いて隊服を脱ぎに行ったベルが戻るまで蛇口から流れ落ちる湯水をじっと見つめていた

「フーラン?ちょっとそっちつめろ…って、おい!素っ裸でひっつくな!コラッ」

バスタブを跨いで入ってきたベルがまだ完全に腰を下ろす前にばしゃりと湯を跳ね上げて抱きつく

「べるっ、ミーきえちゃうの?べるとさよならするの?そんなのやだよっ」

「あ?ナニ言ってんだ?もしかして記憶が戻ったのか?」

「うぅん、ちがう」

「じゃあなンだ?あー…怖い夢ってヤツか」

「あのね、こえがきこえたの」

「声?」
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