little story 【林檎U】

□バニー・ミー
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「できたーっ。みてみて、べるー!」

「あー…そりゃまた随分と前衛的だな」

水色に塗りたくられた表面に赤や緑や黄色のラインや丸や三角の模様が描かれたタマゴを高々と掲げたフランの手や顔はポスターカラーで汚れていた

「アラ、個性的♪どんどん上手になるわねぇ、フランちゃん」

褒め上手なヴァリアーのマンマに乗せられて得意気にエヘヘと笑うフランは年相応の子供らしさに溢れていた

「んとねー、これで8コ目?ミー、10コつくりたいの」

「いいわよ、好きなだけ作りなさいな。中身はアタシが責任もって料理に使ってア・ゲ・ル♪」

「げっ。それで最近卵料理ばっかだったのかよ」

ここ数日、朝のオムレツは頼んでもいないのにいつもの倍の大きさで出てくるし、任務から戻ると夜食としてはボリュームのありすぎる野菜やキノコのフリッタータがどーんと供される。その理由がたった今判明した

「そうだったかしら〜?うふふ」

小指を立てた拳を頬に当てて腰を揺らすルッスーリアにエアパンチをお見舞いしてやった

サロンのカウチにごろんと横たえていた身体を起こし、9コ目のタマゴに取りかかったフランに近付く。一応テーブルを汚さないようにとの配慮から広げられているニュースペーパーの上は惨憺たる有様だった

「べるもやる?」

黄色く塗り始めたタマゴを差し出され、見るだけだと断ると一瞬寂しそうな表情(かお)を見せたがまたすぐ筆を動かし始める

「なぁ。それってもしかして復活祭≠フタマゴ?」

「うん!そうだよ」

ぺたぺたと自分の指まで塗ってしまいそうな勢いのフランが元気よく答えた

イースター(復活祭)は磔にされたイエスキリストが3日後に復活した日を祝う祭りとしてキリスト教徒にとってナターレよりも大切な日だとも言われている。そもそも暗殺部隊がキリスト復活を祝うこと自体どうかと思うが、それはナターレの時に今は色んな事を見て、聞いて、経験して、それを糧に成長してゆく時期なのだから知る事の権利まで奪ってはいけない≠ニルッスーリアに言われていて、自分もそれは理解しているので茶々を入れるつもりはない

しかしそのイースターにカラフルなタマゴを飾ったりするのは英語圏の習慣で、イタリアではパスクア・パスクエッタと言って春の訪れを喜び、ピクニック等に出掛ける習慣の方が定着している。タマゴも本物ではなく、チョコレートの中におもちゃやお菓子が詰まった子供向けの『ウォーヴァ・ディ・パスクア』が主流で、実はベルもフランが喜びそうな『巨大卵』を探しているところだった

「なんで今年はイースターエッグ?」

前衛的な水色のタマゴを手に取り、矯めつ眇めつするとその答えはルッスーリアからもたらされた

「フランちゃんがね、復活祭≠ノついて本で調べたんですって。エライわよね〜」

今の時代、ネットでなんでも調べられるというのにフランはわざわざ書庫へ赴き本を開いているという。ヴァリアーの書庫にはあらゆるジャンル・あらゆる言語の蔵書があるがフランは辞書を片手に片っ端から読んでいるらしい。見るもの、聞くもの、それらを知識としてぐんぐん吸収してゆく年齢だが、こと語学に関してはその伸びはすさまじい。本人曰く「ヴァリアーの入隊条件だから7カ国語を覚える」のだそうだ

「ふーん。それにしちゃ準備早くね?今年のパスクアは20日だろ?」

「だって、かくさなきゃいけないでしょ?」

きょとんと目を見開いたフランが何を言っているの?≠ニいう顔でじっとこちらを見るので、こちらも噛み合わない会話に首を傾げた

「えーっと…」

「え?べる、しらないの?」

カラフルに装飾されたイースターエッグを隠し、それを見つけた人は幸せになれると言われているんだと力説する

「知ってるし。ってか、まさかソレ、王子が探すとか?」

「そうだよー!ミー、がんばってかくすからぜ〜んぶみつけてね」

「いいわね〜、楽しそう♪じゃあアタシはコロンバを作って差し入れするわね。昼食はラムにしましょ♪」

「そこ、探すの手伝う≠カゃねーのかよっ」

「アラ。だってフランちゃんはベルに探して欲しいのよね」

ねぇ〜、と大袈裟に身体を傾けたルッスーリアにフランがうんうんと大きく頷き、エメラルドグリーンの瞳が期待にキラキラと輝く

「う…」

ここで面倒臭い≠ニ言ったらルッスーリアに叱責され、フランに泣かれてしまうのは容易に想像出来る。とは言え、素直に任せとけ≠ニは言いたくなくて考えを巡らせた

「んー…。いいけど、それならフランも手伝えよ」

「え?だってミーがタマゴかくすんだよ?」

ヒントが欲しいの?そう簡単には教えられないな〜とグフフと笑われたがチッチッチッと人差し指を振る

「イースターと言ったらタマゴともうひとつ」

「もうひとつー?」

なんだろうという顔で泳がせていた視線がベルの顔の前でピタッと止まる

「わかったー!イースターバニー!」

「そ♪」

イースターエッグを運んでくるイースターバニーも古代から繁栄・多産のシンボルとして復活祭≠ノは欠かせないものだ

「それとタマゴよこせ。オレも1コ隠すから、それはフランが探せよ」

思いもよらなかった提案に弾けるような笑顔が返ってくる

「うんっ!」

ワクワクとした表情で手渡されたタマゴとポスターカラーでベトベトになった筆を持ちさてどんな模様にするか≠ニ思案を巡らせているとくぃくぃと袖を引かれた

「……んー」

生返事で振り向くと真っ白なウサギの耳が視界に飛び込んでくる

「いゃ〜ん、きゃわゆ〜〜い♪♪」

今にも抱きつかんばかりの奇声を上げて迫ってくるルッスーリアから逃げるようにベルの背中に身を隠すフランを目で追い苦笑した

「ししっ。幻覚出すのは上手くなったけど、リンゴから生えてんのはおかしくね?」

「あ…」

真っ赤なリンゴメットから伸びる長い耳がぴょこんと揺れる。恥ずかしそうに両手を頭に乗せたフランが愛しくてぎゅぅっと抱き締めた



(2014.4/14)

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