little story 【林檎U】
□バーナル・ミー
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「felice Anno Nuovo!あ、日本語ではこうね。あけましておめでとうございます=v
「あ…あけまし、てー?」
「しししっ。おまえ日本語はまだまだだな。もっとお勉強しねーと」
ルッスーリアの掛け声で始まった新年最初の朝ご飯。…と言っても積み上げられた真四角の箱とおヒゲが立派な伊勢エビがどーんと鎮座しているだけでコルネットもカプチーノもテーブルに載っていない
テーブル…というより、ままごとの道具のような膳の前にちょこんと座ったフランはなんとなく落ち着かず足をモゾモゾさせていた
「あぁ、フランちゃん。正座は辛いわね、もう足を崩してもいいわよ」
ボスの前へ進み出て水引飾りをあしらった朱塗りの銚子から二杯目の酒を注ぐルッスーリアがにっこりと微笑む
「なんだぁ゙。まともに正座も出来ねぇのか、チビ」
そう言う自分もとっくに胡座をかいているくせにガハハと豪快に笑うスクアーロめがけて酒が注がれたばかりの杯が飛んできた
「うるせぇ、ドカス」
「ゔぉぉい、なにしやがるっ」
銀糸に大御酒を滴らせたスクアーロが新年初めの暴挙に出た主に声を荒げるがすぐさま次の杯を用意されたXANXUSは何事もなかったかのように黙ってルッスーリアの酌を受けている
「新年早々ボスの機嫌を損ねるとは愚かな奴だ」
「今年も変わりなくこのパターンだね」
レヴィとマーモンはいつものやり取りを静観している。フランはそんなヴァリアーメンバーの様子をきょろきょろと眺めていたが膳の上のイチゴソーダのグラスを手に取り、すぐ隣に座っているベルの袖口を引っ張った
「べる、べるっ」
「あ?なンだよ」
左手に伊勢エビ、右手にオリジナルナイフを構えていたベルが視線だけを寄越す
「ねぇねぇ、コルネットもカプチーノもないよ?なにを食べるの?」
「そりゃここはジャッポーネだからコルネットもカプチーノもねーよ。ホラ、その四角い箱のフタ開けてみ」
言いながらオリジナルナイフを宙に2、3度振り上げたベルはあっという間に大きなエビを食べやすい大きさに切り刻んでしまった
「これ?」
フランのエビも寄越せと手で合図され、両手でエビを掴んで手渡してからそーっとフタを外してみた
「ぅわー…」
黒地に金の蒔絵仕上げの重箱の中には重箱に負けない位つやつやでぴかぴかの黒豆や白とピンクの色が可愛い蒲鉾、フランの大好きな栗がたっぷりと入ったきんとんなどが彩りよくぎっしりと詰められていた
「すごーい、きれいー」
「うふふ、そうね。一番上が一の重、その下の二の重、三の重にもおせち料理が入ってるのよ」
ルッスーリアの説明を聞き、一の重と呼ばれる箱をどかすと言われた通り真ん中の箱にも更にその下の箱にもおせち料理≠ネるものが詰められていた
「べる、すごいねー。おべんとうみたいー!」
ベルと動物園に行った時、ルッスーリアが作ってくれたバスケットいっぱいのお弁当を思い出した
「ししっ。弁当ね。ホラ、おまえの分」
小さく切り分けてもらったエビを指で摘んでひとつ口へ放り込む。ほどよい弾力があり、じゅわっとした旨味と甘みが口いっぱいに広がった
「わぁ!イタリアのエビよりあまーい」
お行儀が悪いと知りつつも、もうひとつ手づかみで口へ放った
「すごくおいしーね、べる」
「そっか。オレは寿司のがいーけどなァ。そうだ、夜は寿司食いに行こうぜ」
「うん、行く!」
以前、ベルの一番好きな食べ物は日本の寿司で、ベルが一番美味しいと思うお寿司屋さんがジャッポーネにあると聞いたことがある。今夜はそこへ連れて行ってもらえるかもしれない
「えへへ。…ん?」
嬉しくて身体を揺らしながら自分の座布団に座り直したフランはみんなが手にしている細長い2本の棒に目を留めた。よく見るとそれは自分の膳の上にも置かれていて、みんなはこの2本の棒を使って食事をしているようだ
「んと…」
フランも見よう見真似で2本の棒を握り、指の間に挟もうとするが上手く出来ずにわたわたと取り落としてしまう
「あらあら、フランちゃんにはまだ箸は難しいわね。フォークをもらった方がいいかしら」
「しししっ。フランはお子ちゃまだからな」
ベルにからかわれてぷぅと頬を膨らませる。どうやら日本の食事は箸≠ニ呼ばれたこの2本の棒を使って食べる決まりらしく、みんなこの箸を器用に使いこなしているのがなんとも悔しい
「ミーだってできるよっ!」
落とした箸を拾い上げ再度挑む
「んー…んんん……あっ」
つかめたと思ったお花の形をしたニンジンがポロリと畳に落ちる
「おまえ、ニンジン嫌いだからワザと落としたんじゃねーの?」
「ちがうもん!ミー、ニンジン食べられるようになったもん!」
早く大きくなってベルと一緒に任務に出たい。その一心で好き嫌いも克服した。それはヴァリアーのマンマの協力なくしては完遂出来なかったのだけれど
「最初に変な癖がつくと直すのが難しくなるよ」
姿形は赤ん坊と変わらないマーモンは三段重ねの座布団の上で上手に箸を使っている。自分より小っちゃな手なのに…と恨めしげに自分の手をグーパーグーパーとむすんだりひらいたりしてみる
「そうね。ベルちゃん、正しい箸の持ち方を教えてあげて頂戴」
「えぇー、面倒くせぇ。ってかフォークでいいじゃんか」
「やーだー!ミーもおはしつかいたいー」
両手に一本ずつ箸を握り、ベルの膝をぱしぱしと叩いた
「わーった、わーった。ちっと手ぇ出してみ」
そう言ってベルがフランの手から箸を奪い、フランが右手を差し出したところでなにやら軽快な音楽が聞こえてきたので音のする方へ視線を向けた
するとぴっちり閉じられていた襖がスパーンッと開き、真っ赤な顔に真っ白い毛を生やした得体の知れないものが踊るように躯をくねらせてフラン達の近くまでやって来た