★思春期リンゴ物語★

□ディサイド・ミー
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「も〜ぅ、フランちゃんたら急に出発するなんてぇ。激励会も出来ないじゃないのォ」

「ボスの気が変わらないうちにと思ってー」

気が変わるもなにも、行けとも行くなとも言われた訳ではない。「好きにしろ」と言われただけだったが理由にするには丁度よかった

「あんな奴のところに行こうとするキミの気が知れないよ」

「見送りには行かねぇぞお゛。今夜任務があるんでなぁ゛」

「結構ですー。そんなダミ声で見送られたらかえって恥ずかしいんでー」

「なにぃ゛ーー!!」

予想通り上がった怒声に、わざと大袈裟に耳を塞ぐ。この声もしばらく聞けなくなる、とは思わずに聞かずに済む、という思考に切り替えて感情をセーブした

憤ったスクアーロの肩をポンポンと諫めたルッスーリアが、そういえばと言う顔でサロンを見回す

「レヴィは昨夜の任務から戻ってないんだけど、ベルちゃんはいるはずよねぇ?」


べる……


その名を聞くだけで胸が苦しくて、斜め掛けしたドラムバッグの紐を直すふりをして胸元のシャツをぎゅっと握った

「あぁ゛ん?部屋にいるんじゃねぇのか」

廊下への扉の方へ振り返ったスクアーロに向かって精一杯平坦な声で告げる

「どーせ堕王子はまだ寝てるんですよー。起こすとウルサイんで別にいいですー」

じゃあ、とペコリと頭を下げハンカチの角をくわえてブンブンと手を振るルッスーリア、こちらに向き直ることもないマーモン、いつもと変わらず書類に目を通しながらエスプレッソを口に運ぶスクアーロのいるサロンの扉を両手で閉めた

「……ふぅ」







* * * * *

「ジャッポーネ!?」

フランの告げた言葉の、その部分だけを反復して雑誌に向けられていた視線が後ろ手に閉じたドアに貼り付いたままのフランに移された

「…うん」


『幻術の修行をしにジャッポーネに行く』


本当は一番最初に相談したかったベルに、結局は一番最後にそれを伝えた

シャツの裾をぎゅっと握り自分のつま先を見つめたまま返事をすると、とにかく入れと促されたのでおずおずとソファに近づく

ベルと対面の位置に回ろうとしたがソファに上げられていた足をベルが床に下ろしたのと、正面から顔を見て話す勇気が出なくてベルが座るソファの端にちょこんと腰掛けた

「で?」

「…んと」

頭の中で整理してきたはずの思考はすべて真っ白に飛んでいて、何から話せばよいのか言葉を探す

「いつから」

いつから行くのか
いつからそう決めていたのか

そのどちらを問われているのか判らずベルの表情をそっと窺うと真っ直ぐにフランを見つめている視線とぶつかってどきんと心臓が跳ねる

慌てて逸らした視線を膝に乗せた拳に戻しぎゅっと握る。手のひらにはじっとりと汗が滲みていて気持ちが悪かった
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