★思春期リンゴ物語★

□クロス・ミー
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任務のなかったルッスーリアと遅めの夕食をとり、お茶でもどう?と誘われてサロンに移動した

食後にとるにしては量も種類も多いお手製のドルチェを勧められ、一方的に話し続けるルッスーリアに相槌を打ちながらも心はそこになかった

チラチラと時計を見ていたせいだろう、ルッスーリアが「あら、もうこんな時間。付き合わせてゴメンなさいねぇ」と立ち上がる。カップや皿をワゴンに載せ、片付けを手伝おうとしたが「いいわよぉ、子供はもう寝る時間♪」と追い立てられてしまった

その子供相手に自分の男の好みをとうとうと聞かせていたのはどこの誰だと思ったがペコリと頭を下げてサロンをあとにした

自室に戻る途中、ベルの部屋の前で立ち止まる。時計を気にしていたのは今夜3日ぶりにベルが任務から戻る予定だから。戻ればサロンにも顔を出すだろうからきっとまだ帰っていない

かつては自分の部屋同然に居座っていたその部屋のドアは重く閉ざされていて立ち入ることを躊躇わせる

ドアノブに掛けた手は回さずに、そのまま自室へ向かった




ぽふっと枕に顔を沈め、息苦しさに首を捻る

「……べる」

その名を唇に乗せるときゅうぅと胸が苦しくなったのはいつ頃からだろう

どきどきと胸が躍り、ほっぺを熱くした幼い頃とは違う、甘く切ない想い

まだ任務に出して貰えなかった頃、ベルの部屋で帰りを待ってそのまま眠ってしまったことが何度もあった。朝、目が覚めると隣にはベルがいてその腕に包まれていることが嬉しくて頬をすり寄せた

いつだったか、夜中に戻ったベルが静かにベッドに乗り上げた気配で目が覚め、子供心に驚かせてやろうと寝たふりをしているとそっと髪を撫でられ、こめかみにkissを受けた

結局驚かすタイミングを逸し、そのまま寝たフリを通したがもしかしたらベルには起きていたことを気付かれていたかもしれない。壊れものを扱うようにそっと優しく頭を抱え込まれてベルの腕に乗せられると、それまで何度もされてきた腕枕にどきどきと心臓がうるさく鳴った

息をすることもままならなくて身動きひとつ出来ないままベルの体温を感じていた




うつ伏せに伸ばしていた足を、膝を抱えるように背中ごと丸めて横向きに寝返ると開けたままにした寝室のドアの向こうに人の気配を感じてがばりと起きあがる

膝をぺたんと内側に折り曲げ、羽根枕を胸に抱えてドアの先へと目をこらす

「…悪りィ。寝てたのか」

声の主は待ち焦がれていたその人のもので、灯りをつけていない寝室のドアからのぞく姿は背中からの光を浴びてその表情までは窺うことが出来なかった

「お…おかえり。遅かったね」

「ん?あぁ、列車の信号トラブルでちっと足止めくらった。こんな遅くなる予定じゃなかったんだけどな」

「へ、へぇー」


ベルが任務の後でどこかへ寄ってくることに気付いてから一年以上経つ

『早く帰ってきて…』

いつも眠い目を擦りながらベルの部屋で待っていた。ソファで眠りこけた身体を抱き上げる腕はベルのものなのにいつもと違う香りに違和感を覚えた

『べる、香水かえたの?』

『は?なンで?』

『うぅん、なんでもない』

一緒にいるのにベルがぼんやりと遠くを見るようになったのはあの頃からだったかもしれない。口数が減り、笑顔が消え、少しずつ少しずつふたりの間に距離が出来た

ベルが香水を変えたんじゃない。それは別の人の香り。そしてその香りはひとつじゃなかった

『どうしてミーのところにまっすぐ帰ってきてくれないの?』

ストレートな疑問は自分の身体の成長とともにその理由を知った


『どうしてそんなことをするの?』
『どうしてミーのそばにいてくれないの?』
『……ミーじゃダメなの?』


そんなの当たり前だ。ベルは男。本能で女を求めるのは仕方のないことなのだ

でも−−−
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