★思春期リンゴ物語★
□ファースト・ミー
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「…ん、フラン?」
覚えのある体温が腕の中になくて、サァサァと微かに聞こえる水音に引っ張られるように意識が戻る
ぽっかりと空いた隣に眉根を上げ、皺の寄ったシーツを左手で弧を描くように撫でれば僅かなぬくもりが残っていた
起き上がって部屋を見回すが求める姿はどこにもなく、一度大きく伸びをして首の後ろをさすりながら爪先を床に下ろす
目覚めた時から絶え間なく聞こえる音を辿って行くと5cm程開いたバスルームの扉の内側に動揺した気配を感じ取り、そっと近付いて中を窺うと洗面台で一心に何かを洗っているフランの横顔があった
手を洗う……にしては随分と長すぎるし、よく見ると洗面台にも前の鏡にも水が飛び散り惨憺たる有様になっていた
「…ナニやってんだ」
ストレートな疑問がそのまま声になってしまいビクンと派手に身体を揺らしたフランが慌てて手にしていたものを後ろに隠す
「べ…べるっ!もう起きたのっ?」
「あ?…あぁ」
確かに常であれば先に目を覚ましたフランに頬を突かれたり鼻を摘まれたりしても反応せず、布団を剥がされ、起きろ起きろと馬乗りになられての渋々の起床なのだ。それが隣にフランがいなかっただけで目が覚めるなんて
その理由を認めたくなくてボーダーの裾から差し入れた手で鳩尾の辺りをぽりぽりと掻いて誤魔化した
「で?ナニやってんの、おまえ」
後ろ手に隠したものからボタボタと水が床に落ち、フランの足元が水浸しになっている
ベルのお下がりをパジャマ代わりにしているのでいつも少しぶかぶかで袖も裾も折り返して着ているが、今朝は太腿の辺りまでのカットソーの下から今にも折れそうな白い脚が直に覗いていた
「なんでもないっ。なんでもないのー!べるはまだ寝てていーよ!」
「っつても、その床…」
ベルの指差す方向にフランも視線を下げ「あっ!」と言う顔で手の中のものをシンクに戻すとばしゃっと勢いよく水が跳ね、昨夜風呂上がりに穿いていたフランお気に入りの紺地に星の模様がついた下着が浮かぶ
「あぁ、そーゆーコトね」
ニヤリと口角を上げて意味深に笑めば、頭に被るリンゴよりも真っ赤に染まったフランが全力で体当たりしてくる
「ンだよ、別にいーじゃん。おまえもオトコノコだもんな。しししっ」
自分にも覚えのある思春期特有の身体の変化。恐らく初めてなのだろう、ジュラで再会してから流れた月日はすでに5年も経っていたことに改めて気付いた
「ばかばかばかー。べるのばかーっ!!」
ポカポカとベルの腹にげんこつでパンチを食らわせバスルームから退かせようとグイグイぶつかってくる
何を食べても(主に甘い物が中心だけれど)身にならず手足も細いままのくせに、ベルを押し出そうとする力は思いのほか強い。その成長も確実に5年分の重みをベルに伝えてくる
「別に恥ずかしがるコトじゃねーって」
「わー!!もう、あっち行ってー!」
これ以上抵抗すると容赦ない幻覚を仕掛けられる恐れもあるので押されるままにバスルームから退散しバタンと力強く閉められた扉を無言で見つめた