★思春期リンゴ物語★

□トーク・ミー
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幼いフランをヴァリアーに迎える前には、それこそ任務の帰りだろうがそのまま盛り場で適当な相手を見つけては一時の快楽に耽り性欲を処理してきた

しつこくされるのは面倒だし、その場だけの相手ならカネでいくらでも買えた。コトが済めばまとわりつかれるのが嫌で余韻に浸ろうとしなだれかかるオンナを無視して部屋を出るのが常だった


それが、どんなに遅くなってもまっすぐ本部へ、自分の部屋へ戻る癖がついたのはいつだったろう

『待ってなくていい』と言っても、膝を抱えソファで背中を丸めている姿に。開いたままの本を枕に、目元に涙の跡を残したまま眠る姿に目を細めた

汚れた血にまみれたこの腕の中に抱いて眠った幼な子が何の疑いもなく真っ直ぐな瞳を向ける度、遠くない未来でその輝きを失わせてしまうかもしれないと思うと今まで感じたことのないモヤモヤとしたなにかが胸をぐっと締め付けた

その感情が自分の中のどこから湧いてくるものなのか、探ろうとすれば余計に迷宮に嵌り込むようで、そんな煩わしい事に囚われるのは御免だと答えを見つけられないまま目を逸らしてきた




「べるー、おかえりー」

たまに買って帰るドルチェよりも『べるが早く帰ってきた』と喜んでその日一日の出来事を息つく暇もなく話す

自分が未来から受け取った記憶ではこれ程おしゃべりなタイプではなかった筈だ

あの未来とでは育つ環境が違うからだろうが『未来の恋人』としてのフランのイメージとのギャップも今のフランに対する興味を深くする原因なのかもしれない

「−−…でね、そしたら鮫がねー……べる?ねぇ聞いてる?」

「あ?あぁ」

ぷぅと頬を膨らませ「ちゃんと聞いてよ!」と腕に縋って見上げてくる純な翡翠色。見つめ返せば吸い込まれてしまいそうな程に澄み切った瞳


これと同じ色の瞳を持つオンナを抱いたのは先月だったか−−−


ボンゴレでは禁じられている薬物の取引が行われるとの情報が入り、その現場で証拠を押さえ指示を出したファミリーを特定する。抵抗すれば殺しても構わないという任務だった。ところがターゲットは抵抗するどころか命乞いを始め、その煩わしさに無性に腹が立った

こちらの血が滾る程の相手と対峙する機会も最近では殆ど無く、そちらの欲求不満も溜まっていたのだ

「抵抗したコトにしちゃえばいーじゃん。死人に口ナシってね、しししっ」

それでもほぼ無抵抗の相手への殺戮で得られる快感は乏しく、余計に腹に溜まった欲望がドロドロと渦を巻く

たまたま通りかかった路地裏でこちらに色を寄越すオンナ。ドス黒い不完全燃焼の欲求は、そのはけ口を性的興奮に置き換え処理することにした

「その瞳(め)、ホンモノ?」

「遊んでくれるならお兄サンの好きな色に変えるわよ?ブルー、ブラウン、それともアンバー?カラコンって便利よね」

「いや、そのままでいい」


セックスの最中の灯りなど気にした事もなかったのに何故だかその日はオンナの顔が見えるのがイヤで、その瞳が欲に濡れていく様だけを焼き付けたくて真っ暗闇の中に身を落とした

自分が何を求めているのかこの時にも解っていたのだ

ただ、それを認めたくなくて。淫靡に揺れるその瞳だけをただ追い詰めた




「べる、この頃ヘンだよ?」

手の甲にあった幼児特有の窪みも消えて、出逢った頃よりは幾分ほっそりとした指をヒラヒラと振り小首を傾げる。その仕草でさらさらと翡翠の絹糸が零れ落ち細い項が露わになった

並んで座ったソファから身を捩りベルの太腿に手を着いて顔を覗き込まれると澄んだ湖面の碧が淫らに欲に溺れたあのオンナの瞳と重なって、何故かばくんと心臓が音を立てた

「なんでもねーよっ」

腿に触れているフランの手を乱暴に払いのけて立ち上がると途端にしゅんとしてソファの上で膝を抱えて黙り込む。フランに向かって伸ばしかけた手をポケットに突っ込んで天井を仰いだ

「いっつもミーばっかりしゃべってるよね…」

「……」

「べるはミーになんにも話してくれないね…」

そう呟いた語尾が震えているのに気付かないふりをした

「ミーじゃ話し相手にもならないの?」

そう言って真っ直ぐに見つめられると、口ほどに物を言うその瞳に言葉を失う


そうじゃない


喉元まで迫り上がってきた言い訳を無理矢理呑み込んでフランに向き合う

「ガキんちょのクセに生意気言ってんじゃねーよ」

「むー。ガキって言うなー!」

そうやってすぐムキになるところがガキなんだろうが、と胸の裡で呟くと自然と口元が緩んでいたようでフランの顔がぱぁっと輝いた

「べる、やっと笑ってくれたー」

ぴょんとソファから飛び降りて抱きついてきたフランを受け止めたが、どうしてもその無垢な瞳を見つめ返す事が出来なくていつのまにか腰の位置まで届いていたフランの頭をそのまま押さえ込んだ

他には何もいらないかのように、自分に縋るこの腕の強さをただ心地よく感じていられるのはあとどれ位だろうか



(2012.4/10)

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