★思春期リンゴ物語★

□スタート・ミー
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「フランを任務に出す」

スクアーロから告げられていよいよその日が来たかと、諸手をあげて喜ぶフランの隣でぐっと息を詰めた

フランには伝えていなかったが実はもう一年近く前から打診を受けていた。その度になんだかんだと理由を付けて先延ばしにさせていたのはベルの一存だったが、しかしそれももう限界だと感じていた

自分が初めて任務に出た歳はとっくに越えていたし、未来の記憶が戻らないことも最早理由にはならない

共に闘った記憶がなくともフランは十分に訓練を受けて力をつけたし、幻術を操るセンスもマーモンに言わせれば『一応、並以上』らしい

ジュラから連れ帰ってすでに3年。今まで任務に出さずに済んでいた事が奇跡に近い

「ウチは保育園でもなけりゃ慈善事業やってる訳でもねえ゛。任務をこなせねえならここに置く意味もねぇだろう?あぁ゛ん?」

そう言われてしまえば返せる言葉は何もない。なにより本人が一番任務に出たがっているのだ。暗殺部隊に身を置くと決意したのであればそれを止める理由はない

「べると一緒でいーんだよねー?鮫ー!」

「う゛ぉい。任務に出るからには隊長と呼べ!」

「わかったー。ロン毛隊長ー!!」

「テメェ、ナメてんのかっ!」

「いよいよ初任務ね。楽しみだわ♪」

「オカマとは一緒に行かないよーだっ。ねー、べる?」

いつものようにボーダーの裾を引っ張りながらベルを見上げた

「……遊びじゃねーんだぞ」

一瞬にして空気がピンッと張るような声音が響く。浮かれていたフランの顔からも表情が消える

「う…ん」

「気ィ抜いたら殺られる。……誰も助けてくれねぇ。誰も振り返らねぇ。そのまま野垂れ死にだ」

「……うん」

こくりと喉を鳴らしてベルの言葉を噛み締めた



あの日。ジュラで出逢ったあの日、ヴァリアーについて行くと決めた

未来のことなんて覚えていないけれど、新しく始まったこれからの未来はベルと共に歩むのだ

誰が決めたのでもない。それが自分で選んだ道。運命だから



「わかってる」

「…それと。任務に出るならオレのことも呼び捨てにすんな」

「え?」

「先輩だ。セ・ン・パ・イ。ちゃあんと敬えよ」

「べる…せんぱい……」

唇に乗せると何故だかきゅうっと胸が苦しくなった


どうしてほっぺが熱くなるの
どうして胸がどきどきするの
その理由(わけ)をべるは知ってるの?


神妙な面持ちでベルを見上げているといきなり鼻を摘まれた

「今まで教えてきたコト、きっちり身に付いてンのか?」

「ふが…っ」

思わずベルの服の裾を掴んでいた手を離して鼻を摘んでいるベルの手首を両手で捉える

「ちゃんとする。ちゃんと出来る。ミーのこと、べるが一番見ててくれたでしょー?」

ぷはっと息を吐き、ベルの手を己の鼻からもぎ取るといつもの笑みが降ってきた

「ししっ。だなっ」

するりと頬を撫でた手がフランの右手を力強く握る

「最初の任務の最初のミーティングだ。行くぞ」

「待って!べる!」

「セ・ン・パ・イ」

「あー…。べる、せんぱい」

僅かに目元を朱に染めて、小さな手でぎゅっと握り返した手を繋いだまま歩き出した



(2012.6/9)

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