dream story  【夢中編】

□本日、解禁日
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「さ〜ァ、今年も解禁よォ〜♪イタリア全土から取り寄せたノヴェッロ、た〜んと召し上がれ〜♪」

フランスのボジョレー・ヌーヴォにあたる、その年に収穫されたブドウから醸造されるイタリアの新物ワイン。ボジョレー・ヌーヴォはボジョレー地区限定で造られているがノヴェッロはその制限がなくイタリア全土、北から南までブドウの種類も生産地も多種多様にそれぞれの特徴を生かした赤・白の新酒が造られる

「う゛ぉい。このカルパッチョのオイルも新物かぁ゛?」

「あら♪気付いてくれたのね〜!オリーブオイルも新物よォ♪他にもトリュフとかポルチーニとか今が旬のご馳走をたっぷり用意したの。ボス、ノヴェッロのおかわりはいかがかしら?」

「フン。こんなもの酒じゃねぇ。ブランデー持ってこいっ」

「はっ、ボス。すぐにご用意を」

XANXUSの要求に応えるべく立ち上がったレヴィ・ア・タンを制し、スクアーロが手にしたフォークを振り回す

「おぃおぃ、ボスさんよ〜。いっつもいっつも強ぇ酒ばっかじゃなくて季節のものも味わってみたらどうなんだぁ゛?このポワレも美味いぜぇ」

「うるせぇ。魚なんか喰えるか。カス鮫の分際で指図するんじゃねぇ!肉だ、肉持ってこい」

まだ栓も抜いていないボトルが宙を飛んでスクアーロに命中した

「しししっ」

「あー、もぅ。静かに食事も出来やしませんー」

いつものやり取りをいつものように冷めた目で見ていたフランは妙に浮かれた様子の幹部達に舌打ちしつつもマイペースで食事を続けている

「ししっ。なンだよカエル、おまえも飲んでねーじゃん」

「ミー、食べる方で忙しいんでー。ほっとていもらえますー?」

赤・白それぞれ一本ずつをカラにしてしまい、次の一本を寄越せとフランに指で合図を送る。やれやれ仕方ないなぁと全身でアピールしたフランが手近な赤のボトルをラベルの確認もせず一本取って手渡そうとするので顔の前で人差し指を左右に振った

「チッチッチッ。王子、白がいーんだよね。そんぐらい察しろよ」

「むー。それなら最初っからそう言えってんですー。しかもそれならセンパイの方が近いじゃないですかー」

氷で冷やされた白のボトルが載ったワゴンはルッスーリアの席の脇にあって、そこならフランの席よりも自分の席からの方が近い。そんな事は当然分かっていての指示なのだ

「無理。オレ、王子だし。そーゆーのがコーハイの勤めだろーが。しししっ」

当然のように空のグラスを差し出せば栓を抜いてわざと溢れるほどにドボドボと注がれた

「テメー、ワザとだろっ!ま、ワインも飲めねーお子ちゃまのするコトだからしゃーねーか」

なみなみと注がれたグラスをまるで水でも飲むように一気にあおり、ニヤリと挑発的な笑みを向ける

「どーせお子ちゃまはワインより食後のドルチェが楽しみなんだろ?甘いモノは別腹〜ってか?しししっ」

「あぁ、フランちゃん。今夜のドルチェは栗やいちぢくを使ったのをた〜くさん用意したからうんと召し上がんなさい♪」

ふたりの会話が聞こえていたのか、XANXUSにフィレ肉を取り分けていたルッスーリアがにこやかに声を掛けてきた

「ししっ。良かったなァ。たらふく喰えるってよ、お子ちゃまガエル♪」

「……」

いつもならばこちらの挑発などさらりとかわすくせに、何故だか今夜は敵意剥き出しの顔で睨みつけてくる。むしろそうするつもりでちょっかいを出しているのだからその反応ににんまりと笑んでやり、さて次は何を言ってやろうかと思案したところで手元のグラスを奪われる

「ん?」

ベルフェゴールの手からグラスを奪い取ったフランは手酌でなみなみとワインを注ぎ、ぐいっと一気に飲み干した

「ぷはーっ」

「おっ、なンだよ。いけんじゃん♪」

フランの手からボトルをひったくり、ホラもう一杯と注いでやったグラスも一気に空にする

「う゛ぉい。ガキが無理してんじゃねぇぞ」

「そぉよ。フランちゃん、やめときなさい。ベルちゃんも煽らないの!」

「そんな飲み方では味も分からんだろう。飲ませるだけ無駄だ」

幹部連中が揃いも揃って「無理だ」「やめろ」と止めるのが面白くないらしく、フランにしては珍しく普段の冷静さを欠いているように見える。ガキでも男のプライドは一応持っていると言うことか。ちらりと周囲を一瞥してベルフェゴールの鼻先にグラスを突き出した

「センパイ、おかわりですー」



 * * * * *

「おーい、カエルー」

「フランちゃん、大丈夫?」

「はいー。なんれすかー」

一応返事はするものの、かろうじて意識がある程度らしく身体は大きな振り子のように左右に揺れている

「う゛ぉぉい。もういい加減やめておけ」

フランが両手で握り締めているグラスをスクアーロが取り上げると今度は目の前に置かれていたボトルをひしっと抱き締める

「しししっ。面白れー」

「ちょっとベルちゃん!もう止めてちょうだい。これ以上飲ませちゃダメよ」

「別に王子が飲ませたんじゃねーし。コイツが勝手に酔っぱらったんじゃねーの?」

確かに焚き付けはしたがベルフェゴールが無理強いした訳ではない

「そーですよー。別にセンパイなんか関係ないれすー」

ボトルを抱き締めたままブンブンと首を振ったフランは被ったままでいたカエルメットのせいでバランスを崩し、椅子から転げ落ちそうになるのを寸でのところでスクアーロに押し止められた

「あー、危ないなー。こーんなの被ってるから危ないんですー。こーんなの被せたヤツが悪いんですー。あー、そうかー。悪いのはセンパイですー」

「ンだと、カエル!殺られてーの?」

シュッと空を切ったナイフがストトッと小気味よくカエルメットに突き刺さる

「イタイですー。暴力反対ー。センパイの阿呆ー。堕王子ー」

「う゛ぉい、危ねぇなっ!オレを巻き込むんじゃねぇ」

口は達者だがくったりと力の抜けたフランの二の腕を掴んでいたスクアーロが怒声を上げるとその後頭部めがけて今度はXANXUSのグラスが飛んできた

「うるせぇぞ、ドカスが。さっさとそいつを片付けろ」

「そ、そうね。フランちゃん、お部屋に戻りましょ」

XANXUSの機嫌が損なわれては一大事、と慌てて肩を貸そうとしたルッスーリアの手を振り払い、フランはイヤイヤと拒絶する

「触んなー。オカマがうつるー」

「んまっ。病気じゃないんだからうつんないわよ」

クネクネと腰を揺らして反論するルッスーリアが、じゃレヴィお願いと水を向けるとレヴィが断る前に胸の前で腕をクロスさせたフランが騒ぎ出す

「キモイ、キモイ。こっち来んなー。こっち見んなー」

「クソガキぃ、いい加減にしろよぉ゛。ベル!テメーが部屋まで運んで行けぇ゛」

「ヤだよ。その辺転がしときゃいーじゃん」

「テメーが煽ったりしなきゃこんな事になってねーだろうがっ!」

フランを間に挟んでスクアーロと睨み合う

「これ以上ガタガタ騒ぐんじゃねぇ。酒が不味くなる。ガキ共はもう寝る時間だろうが」

その手に炎を灯し始めたXANXUSの一声で、その場にいた全員がぴたりと息を止めた。これ以上騒ぐと料理も酒も下手をすれば幹部全員丸焦げだ

「レヴィ」

「ボスのご命令ならば」

ガタンと椅子を鳴らして立ち上がったレヴィがテーブルを回り込む前にその足元へオリジナルナイフを放ち行く手を阻む

「ぅおっ!ベル、貴様なんの真似だっ」

「うっせ。キモヒゲ野郎は引っ込んでろ。分かったよ、オレが運べばいーんだろ。ったく、ホラ行くぞカエル!」

ゴチンとカエルメットにげんこつを食らわせ、悪態を吐きまくるフランを小脇に抱えてダイニングを後にした
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