dream story 【夢中編】
□vacanze
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「センパイ、泳ぎに行かないんですかー?」
「あー?ハナっから泳ぐ気ねーし。かったりィ」
ふたつ並んだ白いデッキチェアに身体を預けてトロピカルカクテルを啜るベルフェゴールに隣のチェアから話し掛ける
「おまえはどーなンだよ?まさかカエルのくせに泳げねーとか?しししっ」
人を小馬鹿にした笑い声にムッとして睨み返し、一番上まできっちり上げたパーカーのジッパーを摘んで下ろすジェスチャーだけしてみせた
「ミーは泳ぐ気満々でしたー。それを阻んだのはセンパイじゃないですかー」
「ん?あぁ、海水は滲みるよなァ。でも昨夜はたっぷりローションで濡らしたし、アソコもとろっとろになるまで解してやったから傷はついてねーと思うぜ?」
「なっ…どこの心配してるんですかっ。そうじゃないですー」
真夏の太陽が空の一番高い所で燦々と輝いている時間帯にする話ではない。瞬時に脳裏を掠めた濃密な情事の光景をブンブンと頭を振って追い払った
「次の日、海に行くって分かってるくせにキ…キスマークとかつけますか、普通」
「あー、悪りィ悪りィ。つい、な」
ニヤニヤと意味深な笑みに、ベルフェゴールにも昨夜の記憶が蘇っていると思い当たり、わーわーと空中を掻き混ぜた
「でもホラ」
そんなフランを気にするでもなく、親指でクイッと海辺の方を示す
「どーせ今、泳げる状況じゃねーぜ?」
そう言われてフランもそちらに視線を向けてギョッとした。膝の辺りまで海に浸した銀髪の主が左手の剣を振り回す傍らで派手に水しぶきを上げる巨大な鮫が目に飛び込んで来たからだ
「ちょっ…何考えてんですか、あの人ー。アホだアホだとは思ってましたけど」
「だなっ。いくらプライベートビーチだからっつってもアレはねーだろ」
「激しく同感ですー」
大きなビーチパラソルの下にいるベルフェゴールとフラン。少し離れた椰子の木陰で特注で特大のデッキチェアに寝そべるXANXUSと、それを頼まれもしないのに見守り続けるレヴィ・ア・タン。ルッスーリアは白いサンドレスを身に纏い日傘を差して波打ち際でスクアーロと何か話している
「海に来て、ほぼ誰も海に入ってませんけど…来る意味あるんですかー?」
「んー…まぁ毎年恒例だし?」
「イタリア裏社会の人間を震撼させる暗殺部隊ヴァリアーが毎年恒例の海水浴って何の冗談ですー?」
「まぁ、そー言うなって♪」
トロピカルカクテルに添えられていたデンファレをフランの髪に挿して、さも楽しげに頬を撫でる
「あらァ、フランちゃん。よく似合うじゃな〜い」
いつの間にか近付いてきていたルッスーリアが翡翠の髪に映える蘭の花を見て日傘をクルクルと回すので、フランは慌ててそれをもぎ取った
「なぁ。アレどーにかしろよ」
ベルフェゴールが再び親指でクイッとスクアーロを指差す
「え?あぁ。アタシが夕飯のバーベQ用に魚の1匹でも捕まえてごらんなさいよって言ったらあの状態になっちゃったのよォ。でもねぇ、アーロがいたらかえってお魚も逃げちゃうわよねぇ」
頬に手を当てホゥと息を吐くルッスーリアはどうやら本気で夕飯の食材の心配をしているらしい
「魚なんか焼いたって、どーせボスは喰わねーじゃん。肉ならたんまり持ってきてンだろ?」
「まぁ、そうなんだけどね」
ふたりの会話に、なるほど夕飯はバーベQか、それはちょっと楽しみかも…と思考を飛ばしているといきなり頭を小突かれた
「ったー。ナニすんですかー」
「今からヨダレ垂らしてンじゃねーよ。いくぞっ」
「えっ?」
小突かれていた場所をさすっていた腕を掴まれグイッと引き起こされる
「わっ…と」
砂に足を取られ、よろけた拍子に左足のビーチサンダルが脱げてしまった
ビーチパラソルの陰から一歩出ると真夏の日射しに照らされたビーチの砂は焼ける程熱い
「熱っ!」
ぴょんぴょんと足を振りながら思わず飛びつくと、そのままスイッと抱え上げられて今度はベルフェゴールの腕の中でバタバタと足を振った
「暴れンなよ、カエル」
「や、だって…」
ベルフェゴールの肩越しに今いたビーチパラソルの方を見遣るとルッスーリアが嬉しそうにヒラヒラと手を振っている
「海、入りてーんだろ?あー、でもパーカー着たまンまな。王子以外に肌見せるの禁止♪」
「どーせヴァリアーの面子しかいないじゃないですかー。でも今日は脱げませんよ、誰かさんのせいでー」
もしかしたら昨夜、自分の肌に所有の証をつけたのは暗にそういう理由もあったのか…と、そんな事を馬鹿馬鹿しくも嬉しいと感じてしまう自分も一緒に海に来られる事を実は楽しみにしていたのだと伝えたくてベルフェゴールの首に両腕を回し耳元にそっと囁いた
「じゃあセンパイもミー以外に見せたらヤですー。そのアロハシャツ脱がないで下さいねー」
「ししっ。了ー解っ♪」
ちゅっと軽く触れるkissを頬に受け、更にぎゅっとしがみつく
「背中日焼けしたら今晩ヤれねーもんな。あ、バックならなんとか出来……イテッ」
それ以上言わせないように首に巻き付けた手で後ろ髪を引っ張りジロリと睨み上げる
「おーい隊長ー、アーロしまえよ!」
「あぁ゛ん?テメーらも泳ぐのかあ゛?」
「ししっ。主にカエルが、なっ♪」
5秒後海面に放り投げられる事を今はまだ予測できないフランに、アーロが跳ね上げたしぶきがキラキラと降り注いだ
(2012.8/10)
→side B 『savor』へ続く
◆注意◆
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