dream story 【夢中編】
□ささめき
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「あ…ん。だからそっちはフェイク、なのよ…あっ…」
元々大きく開いたドレスの、たわわに揺れる胸に顔を埋めた金糸を派手にデコレィトされた爪で掻きむしるように引き寄せる
「フェイク?まさか。どーゆーコト?」
深く切れ込んだスリットから覗く白い腿を撫で上げると自ら誘うように脚を開き真っ赤なピンヒールを男の腰に絡ませる
「あん…っ、だ…から。……ねぇ、もっと…あぁん…っ」
乱れた息で誘い、まだ上着も脱いでいない男のタイに指をかける
「だーから。ちゃあんと教えてくれたらもっとイイコトしてやるっての。しししっ」
オンナの指を払い、自らタイを緩める。僅かに身を起こした男を離すまいと、ぽってりとした肉厚な唇が露わになった首筋にべったり吸い付くのを息を殺して見つめていた
独立暗殺部隊ヴァリアー。その名はイタリアマフィアで知らぬ者はいない
しかし、常に敵対マフィアの殲滅や血で血を洗う死闘ばかりではない。フランはすでに幻覚を仕掛けてあるこの部屋で一番嫌いな任務を遂行すべく、ペアを組んでいるベルフェゴールの様子を窺っていた
「あっ…ん。あぁっ」
オンナの嬌声に耳を塞ぎたくなるがベルフェゴールからの合図を逃してタイミングを逸しては任務に影響する。情報を聴き出すだけのオンナ相手で、即、死に繋がる訳ではないが僅かな隙に本来のターゲットである情夫に連絡でもとられたらそれこそ任務失敗だ
息を殺し、カウチソファで睦み合う二人に厭でも集中しなければならない
柔らかそうな丸みをもったオンナの身体が妖しく揺れるのを、フランは耳を塞げないかわりに自分の両腕を抱き締めて耐えていた
初めてこの任務に連れ出された時はただただびっくりして思い切り目を背けた。そのせいでベルフェゴールからの合図を見落とし、後になって「テメーのせいであんなオンナに喰われるトコだったじゃねーかっ!」とゲンコツをくらった
べっこり凹んだカエルメットをさすりつつ「こんな任務はイヤだ」と訴えると「おまえに拒否権なンてあるワケねーだろ」と一笑に付された
その後もこのての任務の時は決まって指名され、無論断れるはずもなく渋々任務にあたっていた
「合図を見落とさないように、しっかり見とけよ」
ベルフェゴールはさも楽しそうにそう言って"任務"と言う名の"行為"に耽る
胸の奥にベルフェゴールへの秘めた想いを抱くフランにとっては、たとえ任務だとはいえ自分の目の前でオンナを悦ばす行為を行う姿を黙って見ていなくてはならないのは最早拷問に近い
あの行為に「愛」は存在しない
だからといって、それでいい訳ではなく、ではベルフェゴールは「愛」がなくてもああいうことが出来る人間なのだろうか
そんなとりとめもない疑問がぐるぐると渦を巻きフランの心を締め付ける
ベルフェゴールの手がオンナの肌を滑る時、どうして自分の肌がぞくりと粟立つのか。しかしそれは嫌悪からくるものではないのだと気付いていた。身体の奥で燻っている熱を感じて、一体自分はどうしてしまったのかと愕然とするが、それをどうすることも出来なくてただ耐えるしかなかった