dream story  【夢中編】

□視線の先の
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「……おいっ!」

テーブルの向こうから声を掛けられハッとして相手の表情(かお)を見る。相変わらず瞳は厚い前髪で隠されているのでその心情は諮れず、僅かに吊り上げられた口元から人を小馬鹿にした笑みだけが読み取れた

「なにボーッとしてンだよ。ま、テメーがボーッとしてんのはいつものコトか。しししっ」

「別にボーッとしてた訳じゃないですー」

反論しつつ、目の前のメインディッシュにナイフを落とす

「んじゃオレに見惚れてたのか?ま、しょーがねーよな、オレ王子だし」

「相変わらず自意識過剰ですねー。なんで堕王子なんかに見惚れる必要があるってんですかー」

切り分けた香草焼きにフォークを突き刺して乱暴に口へと運ぶ。そんな様子をニヤニヤと眺めているベルフェゴールが傾けているワイングラスを持つ指につっと視線を走らせた

口をつく言葉とは裏腹に、ベルフェゴールが言う通り確かに見惚れていた。それはよく手入れをされた金糸の髪でもなければ、すっと通った鼻梁、シャープな顎のラインを備えた端正なマスクでもない

フランの心を掴むのは、細く長くしなやかなあの指

流れるような動作で繰り出される彼の愛器はあの僅かに節くれ立った指に携えられ、まるでワルツを踊り出すかのように滑らかに確実にターゲットを仕留めるのだ

初めて彼に出逢った時から、何故か心惹かれた美しい指

先輩・後輩として共に任務に出た日も、こうして休日を恋人らしく過ごす日も、いつだってフランの視線はそこへと注がれる

「明日っから長期任務だっつーのに、もっとオレになんか言うことねーのかよ」

「あー。まぁ一応、お気を付けてー。期待はしてないですけど、色んな意味で」

「一応ってなんだし。天才のオレに言うセリフかっ。それに色んな意味ってなンだよ」

ヴァリアー1の戦闘センスを持つのだから心配する必要などないと常から言っているのは彼自身だと言うのに、それでも恋人の口から『無事に帰ってきて』の一言でも聞きたいのだろうか

「センパイが長期任務の間、ミーは単発でちょこちょこ働かされるらしいですー」

ベルフェゴールの問いには答えず、もくもくと目の前の食材を平らげる

「しょーがねーだろ。新米幹部は所詮使いっぱなんだよ、しししっ」

恋人からの甘い言葉など端から期待していなかったのか、ベルフェゴールもワイングラスを置いてカトラリーを手に取る

皿の上の肉塊に静かに落とされるナイフに添えられた右手の示指にくっと力が入る瞬間を見逃さないように息を止めて見つめた

左手の拇指と中指はかるく握られ、緩く伸ばされた示指が曇りなく磨かれたフォークの背面に宛われる

優美な仕草はさすが高貴の出であると認めざるを得ない。切り分けたそれをフォークで口へと運ぶ動作も無駄がなく滑らかで淀みないのだ。おもわずこくりと喉を鳴らしてしまうほどに


あの指に触れたい
あの指で触れられたい


何故にここまで惹かれるのか、今となってはそんな理由はどうでもよくて。しっかりとした関節を持ち、どう見ても男の手であるのに『美しい』と表現するに相応しいあの指がうっとりと見つめるフランの眼前に伸びてきていきなり唇の端を掠めた

「…っ!」

不意に触れられたそこからカッと熱が灯り、曖昧に注がれていた視線の焦点をベルフェゴールへ向ける

己の手元に引き戻された指。フランの口元を掠めたそれにチラと視線を落としベルフェゴールはそのまま自らの口腔に指先を含むとちゅぷっと音を立てて引き抜いた

「ソースついてた」

ニイッと口角を上げて笑むその表情にはどこか雄の獣の艶が感じられてフランの鼓動がどくんと弾ける

妖しく濡れて光るその指から目が逸らせないまま、もしかしたら自分の秘めた想いに気付かれているのかもしれないと、身体の奥で疼き始めた熱とは逆に背筋がすぅっと冷えるのを感じていた



(2012.4/18)

→side B 『秘め指』へ続く

◆注意◆
side Bは裏表現を含みます
閲覧は自己責任でお願いします

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