office story 【番外編】

□それが恋とは気付かずに
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「は〜い♪こちらヴァリアー・デザインボックスよん…って、あらベルちゃん。え?今日も来ないの?んもぅ、たまにはオフィスにも顔出しなさいよ…って、あん、もう切れちゃったわ」

諫める口調ではあるものの、仕方ないわねぇと受話器を置いたルッスーリアはむしろ楽しそうだった

「またベルは遊び歩いてるみたいだね。経費で落とせない様な店の領収書ばかり持って来て、困るんだよね」

時計をチラッと見た経理担当のマーモンは「じゃ、ボクはこれで」とフレックス制にも関わらずきっかり5時でいつも通り退社する

まぁ殆どのメンバーが昼近くにダラダラと出社してくると言うのに、毎日律儀に9時出社しているのだからそれはそれでアリなのだろう

「フランちゃんは今日何時頃まで?アタシ悪いけど6時で上がらせてもらうわぁ、んふっ♪」

「どーぞ。ミーはまだ暫くいますんでー」

モニタに視線を向けたまま返事をする

鼻歌まじりのルッスーリアは聞いてもいないのに今日のデートの相手の話をし始める。機嫌が良かったのはそのせいかと納得した

「彼とはまだ3回目のデートなの。でも今夜こそモノにするわぁ♪」

大した意気込みだ。こっちはその浮かれているオカマが取ってきた納期のキツイ仕事のフォローをしているというのに…



ここは『ヴァリアー・デザインボックス』

主に宝飾品や化粧品を扱うクライアントを得意先に持つデザイン事務所

もともとウチのボスは一部上場の広告代理店『ボンゴレ・エージェンシー』のデザイン部門の、しかもかなり高い地位にいたらしい。でも、経営の事だかデザインの事だかで派手にモメ、結局独立してこの『ヴァリアー・デザインボックス』を立ち上げた

もともとこの業界ではかなり有名人のボス・XANXUSは仕事のクオリティは半端なく高い。ボンゴレ時代の顧客がXANXUS指名で仕事を出してくるので、独立したとはいえボンゴレ経由の仕事も舞い込んでくる

そしてボスが独立する事になった時、当時広報部部長だったスクアーロは自らボスについて行くと決め、同時退職して今はボスの右腕としてこのオフィスのマネージメント的な業務をこなしている。今日もクライアント絡みの会合をキャンセルしかけたボスを無理矢理引っ張って一緒に出掛けている。渋々出掛けたボスから後で嫌という程どつき回されるのは覚悟の上だろう。そんな事は日常茶飯事なのだから


「じゃ、フランちゃん。悪いけどお先に♪今日はレヴィも外注先回ってそのまま帰ると思うから…戸締まりお願いね〜」

ルッスーリアはスキップでもしそうな勢いだ。あの様子では今日の相手の男は確実に頂かれるんだろうな…お気の毒に、という思いで見送った



ミーはフラン。このオフィスでは一番下っ端。そしてこのオフィスのメンバーはあと2人

外注を回って帰るレヴィ・ア・タンは、企画・営業担当のルッスーリアの補佐として営業及び雑用係担当

そしてもう1人、デザイン担当のベルフェゴール。ウチの専属デザイナー

実は自分がこの業界に興味を持ち、専門学校で広告デザインを専攻したのは、このベルフェゴールが手掛けた広告に強く心惹かれたからだった

恐らく、どこかの企業のイメージ広告だったと思う。【紅 −くれない−】と名付けられたそれはその年の広告大賞も受賞した

専門学校に入ってから手にした資料にもベルフェゴールの作品が何点か掲載されていて、どれも自分の心を強く刺激するものだった

デザインセンスは抜群で、それは否が応でも認めるところではあるけれど、噂では、たとえクライアント相手でも容赦なく自分の意見を述べ、ばっさりと切り捨てる。そんなベルフェゴールを『プリンス・ザ・リッパー』と呼ぶ人もいるらしい


一体どんな人なんだろう…


そんな漠然とした思いからベルフェゴールという人物とそのオフィスの事を調べ、その後の展開は思いもよらない事態の連続で、自分は今ここにいる−−−
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